成長とは、考え方×情熱×能力#61
先代は何処に
やがて、夕方の5時となり、歌陽子(かよこ)の誕生会は始まった。
だが、主役のはずの歌陽子は自室のベッドで、桜井希美、松浦由香里のもと学友二人とハウスキーパーの安希子に介抱されていた。
誕生会開始前、訪問客を出迎えていた歌陽子には一波乱があった。
まず、希美からいきなり恋のライバル(?)宣言。それで、当の高松祐一とは気まずくなるし、いきなり現れたイケメン外国人には抱きしめられるわ。
そうしたら、その外国人は、宙が自分をロボットコンテストで打ち負かすために雇った強力な助っ人だと言うし、しかもこともあろうに歌陽子の消したい過去「レッドクイーン」の写真を大事に持っているし。
極め付けは、その外国人、オリヴァー・チャンから唐突なプロポーズの猛アタック。
やがて定刻となり、父、東大寺克徳から、
「さあ、皆さんの前で挨拶をしなさい。」
と促されて、
「お父様、・・・申し訳ありません。うっ!・・・気分が優れないので・・・、うっ!少し・・・休ませていただいて良いですか?うっ!」
と言った状態。
見れば口を押さえて吐き気を堪えている。顔は真っ青で、脂汗まで浮かべている。
我が娘ながら情けないと思う半分、分からんでもないと同情する気持ちが半分。
だから、叱る気にもなれず、
「・・・、仕方あるまい、少し休んできたら良い。その間は私が繋いでいるから、なるべく早く戻るんだぞ。」
と、感情を抑えて言った。
そして、
「安希子さん、すまないが歌陽子に付き添ってくれないか?」
「畏まりました。旦那様。」
希美と由香里も、
「私たちも一緒に参りますわ。」
と申し出た。
克徳は、
「すまない。世話をかけますが、よろしくお願いします。」
と言い残してホール正面の舞台に向かった。
一方、自室で歌陽子はドレスのコルセットを外して貰い、少し楽に息ができるようになっていた。
「はあ、見るからにお嬢様はフラットでございねえ。」
明らかに、安希子は歌陽子の未発達な身体をくさしているのだが、今の彼女には言い返す気力もなかった。
「フラットって、どう言うことですの?」
不思議そうに、由香里が聞いた。
「つまり、由香里お嬢様の反対と言うことです。」
的確な安希子の答えに、「ああ、そうか」と納得顔の希美。
「え、どう言うことですの?」
なおも追及してくる由香里に、安希子は少し言い方を変えて言った。
「つまり、うちのお嬢様は、コルセットでぎゅうぎゅう締め付けたり、真っ赤なドレスでこれでもかと着飾らない限りは殿方から見向きもされないと言うことです。」
「うう・・・っ。」
突然、歌陽子の口から嗚咽がもれた。感情が高ぶっているところに、安希子から言いたい放題言われたせいだった。
「まあ、ひどい、安希子さん。歌陽子さま、泣いてらっしゃるじゃない。こんなナイーブな方を傷つけてはなりませんわ。」
「失礼しました。」
そう謝りながら、安希子は続けた。
「ですから、由香里お嬢様、可哀想に思ってせめて高松さまはお嬢様にお譲りくださいませんか?」
そう言われて由香里の顔は真っ赤に染まった。
「そ、そんな、お譲りするなんて、私は最初からお二人の恋愛を応援していますのよ。」
「なら、なぜ『お慕いしています』なんて言われたのですか?あの後、お嬢様、明らかに意識していましたよ。」
「そ、それは、私がそれくらい思うほど素敵な方だから頑張って、と言おうと思って。」
「微妙な駆け引きですねえ。」
「そ、それは・・・。」
「ま、高松さまがダメでも、お嬢様にはあのイケメンのオリヴァーがいますもんね。」
そこで、少し眉をひそめて希美が会話に加わった。
「あの、安希子さん、あのオリヴァーと言う人にはあまり近づかない方が良くてよ。」
「何か知っているんですか?」
「知ってるってほどじゃないけれど、何度もアジアの有名なモデルさんと噂になっていますもの。歌陽子さまが結婚されても、幸せな家庭は築けませんわ。」
「あ〜あ、あんなにイケメンなのにもったいない。しかし、大旦那様がおられなかったのが、せめての幸いですね。」
「大旦那様と言うと、歌陽子さまのおじい様の?」
「はい、歌陽子お嬢様の可愛がりようはある意味異常なほどです。もし、大旦那様の目の前で『お嫁にください』なんて口走ろうものなら、ヨチヨチ歩きのベンチャー企業などたちまち捻り潰されてしまいますよ。」
「うわあ、怖そう。でもおじい様は、毎年、歌陽子さまのお誕生日には何か趣向をされて皆さんを楽しませてくださいますものね。」
「あ、そうそう、歌陽子さまの5歳のお誕生日の『猫踏んじゃった』のDVDは素晴らしい内容ですわ。」
「うわあああん。」
それまで黙って聞いていた歌陽子が突然大泣きをした。よほど触れられたくない過去だったらしい。
「ごめんなさい。歌陽子さま。」
「そうです。悪気は無かったんですの。」
そう優しく声をかけられてもなお、枕で顔を隠してグズクズと泣き続ける歌陽子。
安希子は、半ば呆れたように、
「お嬢様方、歌陽子お嬢様はすっかり拗ねてしまわれましたので、ほっておかれませ。こうなるとかなり面倒くさいですから。
それにしても・・・、大旦那様はどこへ行かれたのでしょう。また、なんか企んでいるに違いないですが、姿が全く見えないのがよけい不気味ですね。」
と言った。
その時、歌陽子の母親の志鶴が息を切らして部屋に飛び込んできた。
「た、たいへんよ!歌陽子、たいへんなのよ!」
(#62に続く)