成長とは、考え方×情熱×能力#57
異邦人
「あ、ごめん、お取り込み中だったかな。」
甘い声で、急に声をかけられて、安希子は歌陽子(かよこ)から慌てて離れて、丁重に頭を下げた。
「いらっしゃいませ。」
背の高いスーツ姿のスラッとした男性。
「町屋さん。」
「やあ、歌陽子ちゃん、一年ぶり、お誕生日おめでとう。はい、これ、プレゼント。」
そう言って町屋青年は、歌陽子に大きな花束を渡した。花束の中には小箱が埋められていた。おそらくジュエリーだろう。
「あ、ありがとうこざいます。」
歌陽子は花束を受け取ると礼を口にした。
さっと、メイドの一人が近寄って手に持ったコートを預かると、番号キーを渡して彼をパーティ席に案内をした。
「う〜ん、65点。」
こっそりと安希子が点数をつけている。
それを聞いたメイドの一人が不思議そうに安希子に小声で尋ねた。
「え〜っ、どうしてですか?あんなにカッコイイのに。」
「服装がダサい。プレゼントがイマイチ。」
「うわあ、辛口。」
「当たり前です。歌陽子お嬢様のお相手には将来東大寺グループを担って貰わなければならないんですから。」
「じゃあ、あの方は?」
「35点。」
「低いですねえ。何故ですか?」
「年を取りすぎている。」
やがて、次から次と来客が訪れ、歌陽子にお祝いの言葉やプレゼントを渡した。
男性、女性、若い人、中年の人、年配の人、明らかに重役の貫禄のある人。
その来客に歌陽子は一人一人丁寧に礼を述べ、またメイドたちは彼らの案内に走り回った。
そして、安希子は若い男と見るとこっそり点数をつけていた。
希美と結花里は、歌陽子のそばに立って頭を下げながら、抱えきれないほど渡された彼女の花束やプレゼントを受け取る役をしていた。
そのうち、結花里がハッと弾かれたように入り口を振り返った。
そして、
「ねえ、ねえ、高松さまよ。」
と歌陽子に知らせた。
彼女なりの精一杯の気の使い方らしい。
しかし、結花里から「高松のことが好きだ」と告白されて、正直どんな顔をしたら良いか困ってしまう。
「やあ、歌陽子ちゃん。」
近づきながら高松祐一は気さくに声をかけてきた。他の来客に比べれば、ずっと地味な服装、しかしさっぱりとして好感が持てた。
差し出した花束も、数本だけの簡単なものだった。でも、場違いだとか、見劣りがするとか全く気にしない。素直で自然体な性格が歌陽子にはとても好もしかった。
(ひょっとしたら、この人なら裸のままの私でも好きになってくれるかも知れない。)
そんな期待をしないでもない。
(でも、やっぱり私では釣り合わない。)
そんな思いがどうしても拭えなかった。
「ねえ、歌陽子ちゃん、僕だよ。忘れた?ほら、祐一。」
結花里の告白を聞いて意識してしまったからか、なんとかなく反応のにぶい歌陽子に、祐一は気になって自分から名乗った。
「あ、あ、はい。ゆ、祐一さん、この度は有難うございます。」
少し笑顔がぎごちない。
その祐一を安希子は少し離れたところで採点をしていた。
「よし!95点。」
「え〜っ、さっきもっとカッコイイ人いたじゃありませんか?」
「あの方は別格なの。何しろ、歌陽子お嬢様の花婿候補ナンバーワンなんだから。」
一瞬怪訝な顔をしたものの、すぐに笑顔に戻った祐一はパーティ席へと案内されて行った。
そばでは結花里が顔を赤らめながら、歌陽子の陰に隠れるようにしていた。
歌陽子の前では「お慕いしています」と強気のことを言いながら、その実明らかに意識し過ぎてガチガチになっているようだった。
やがて、メイドの一人が安希子に話しかけた。
「ねえ、安希子さん、あの方、カッコよくないですか?」
次に姿を現したのは、黒髪で色黒の男性。冬の最中にも関わらず少し胸をはだけて、半袖のシャツからたくましい腕をのぞかせている。腕に光っているブレスレットや胸のネックレスが彼をとてもセクシーに演出していた。
堀の深い顔立ち、アジア系の外国人のようだった。歳の頃は30手前。
大股で歌陽子の方に近づいて来る。
そして、歌陽子の後ろに立っている安希子たちも色めき立っていた。
「知ってる人ですか?」
「いいえ、知らない人よ。旦那さまのお客様かしら。」
「でも、いい男ですねえ。」
「う〜ん、悔しいけど、98点!」
「え!最高更新ですか?」
「ん〜、まあね。」
歌陽子も、思わず彼に見とれてしまった。やがて、異邦の男性はそばまで来ると、少し英語訛りのある日本語でこう言った。
「おお、カヨコ!やっと会えた。僕のクイーン。」
そう言って、歌陽子より30センチはある上背から、覆いかぶさるようにして彼女をギュッと抱きしめた。
(え・・・、なに?)
(#58に続く)