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今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

成長とは、考え方×情熱×能力#50

(写真:緋のひとひら)

バースデー

新年明けて、出社初日。

歌陽子(かよこ)には、野田平、前田町、日登美ら三人に報告することが山ほどあった。

しかし、まずは無難なところから。

「日登美さん、息子さんから今朝ほど、ロスアンゼルスに無事到着したとメールがありました。」

「そうですか。昨日もお見送りをお願いして申し訳ありませんでした。」

「いえ、いえ、あれだけお世話になったんですから当然のことです。」

「ほんとに、実の親にすら、いつアメリカに帰るとも言わないもんですから、困ったものです。しかし、あのヒネクレ者も歌陽子さんにだけは心を開いているようで安心しました。」

(でも、本当は気軽にいじれる相手というだけだったりして。)

「そう言えば歌陽子さん、元日の朝に、うちに帰ったらですよ、玄関の前に餅とかお酒とか、塩じゃけとかイクラとか、おせちとか、山積みでしてね。いやあ、ビックリしました。」

「へえ〜っ!それ、まるで笠地蔵ですね。どこかのお地蔵さんに傘をかぶせたりしてません?」

「そんなことではないのですが、紙が置いてあって、ただ『食え!』とだけありましてね。」

「あ、それってもしかしたら?」

「はい、泰造の字でした。あいも変わらず素直じゃなくて困ります。」

そう言って、日登美は笑顔を見せた。

「良かったですねえ。昨日も、『冷戦中だ!』なんて言っていましたが、お父さんからのメールをとても嬉しそうに見せてくれましたよ。」

「いやあ、あれ見たんですか?私としては引導を渡したつもりだったんですけど。」

「またあ、すぐ悪ぶる。息子さんからもキチンと返信あったでしょ?」

「私がいなくなったら、また帰るって書いてありました。早く死ねと言うことでしょうか、困ったドラ息子です。」

「自慢のドラ息子ですね。」

「はは、そう言うことにしておきましょう。」

「きっと今年の年末も帰ってきますよ。そして、何年かぶりに親子でお正月を過ごせますよ。」

日登美は、そこでメガネを外すと、ポケットのハンカチでキュッキュッと拭った。
そして、メガネを外したまま遠い目して、

「そうですね。そうだと有難いですね。」と言った。
しかし、日登美はすぐに表情を変え、

「ところで、歌陽子さんのご自宅に社長が行ったと聞きましたが。」

(なんで、こんなに情報が早いの?)

もう少し日登美との会話の余韻を楽しみたかったが、やはりここはキチンと伝えよう、そう思って歌陽子は後の二人にも呼びかけた。

「あのお、新年早々申し訳ありませんが、前田町さんと野田平さんにも聞いて貰いたいことがあります。」

だが、向かいの机からバサッと言う音を立てて、資料の山が飛んできた。
歌陽子は危うく避けたものの、次に飛んできたのは不機嫌な野田平の怒鳴り声だった。

「うるせえ!バカカヨ!頭に響くだろうが!」

(うわあ、正月中飲んでたんだ。それで二日酔い?ならば、うちで寝てればいいのに。)

「おい、カヨ。」

ジロリと睨んで野田平が言う。

「は、はい、なんでしょうか?」

「今の、全部声に出てたぞ。」

慌てて口を押さえる歌陽子。

「やっばり、てめえ、ろくなこと考えてやがらなかったなあ。とっちめてやる!」

「わあ、ごめんなさい。」

そこに、前田町が割って入った。

「おい、のでえら。」

「なんだ?」

「おめえ、頭は痛くねえのか?」

「は・・・い、痛たた。畜生、思いださせやがって。」

「今年も相変わらずだなあ、おめえは。」

「うるせえ。」

「ところで、嬢ちゃん。話したいことって何だ?」

(危うく忘れるところだった・・・。)

「あの、実は、2日の日に、うちに牧野社長が来られまして・・・。」

「ああ、日登美が言ってたことだろ?知ってるぜ。」

(ど、どこで・・・?ま、まさか?)

「前田町さん、また私のスマホで盗聴したでしょ?」

「さあてな。」

「もう、ホントにやめてください。」

「ふん、あのジジイもなかなかの啖呵を切るじゃねえか。」

「ホントに全部聞いてたんですか?」

「いや、たまたまだ。嬢ちゃんが怖えおっかさんに耳を引っ張られてるとこなんざ知らねえぜ。・・・おっと・・・。」

「前田町さん!もう、スマホ捨てますから!」

「ああ、ああ、すまねえ、今日消しといてやるから勘弁してくんねえ。」

「きっとですよ。」

「ああ、それより嬢ちゃん、三つ巴とはおもしれえじゃねえか。」

「へ?」

「だからよお、嬢ちゃんの小生意気な弟も参戦するんだろ?」

「え、ま、まあ。」

「手強そうか?」

「天才・・・です。それにお父様に頼んで、クラウドソなんとかで技術者を集めていました。」

「クラウドソーシングか。まったくおかしな時代になったもんだぜ。金さえ出せば、人間を切り売りしてくれるってんだからよ。」

「あの、前田町さん。」

「なんだ?」

「勝てますよね?」

「タリメーよ、誰にもの言ってんでえ!」

「だけど、向こうは技術者もお金もどんどんつぎ込んでいます。」

「バカばっかりだよな。こんなチンケなコンテストに本気になりやがって。だが、少しは楽しませて貰えそうだな。
よおし、嬢ちゃん、ここは一つ、明日からでも起動テストといこうじゃねえか!」

しかしそこで歌陽子は、少し申し訳なさそうに、

「あのお、明日申し訳ないんですけど、有給をいただけないでしょうか?」

「ああ?まあ、いいが、普通有給願いは部下の俺らからあんたに出すもんだろ?」

「そ、それはそうですけど・・・。」

(都合のいい時だけ部下になるんだから。)

「おい、嬢ちゃん。」

「は、はい?」

「声に出てるぞ。」

「は・・・!」

また、慌てて口を押さえる歌陽子。

「やっばりか、いつもろくなこと考えてねえんだな。」

(や、やられた、一度ならず二度までも。)

「で?明日何があんだ?」

「あのお、私の・・・そのお21回目のバースデーで。」

「はあ?あんた、そんな誕生日祝って貰う歳じゃねえだろ?」

前田町は思わず素っ頓狂な声を上げた。

「あの、私じゃなくて・・・周りが大騒ぎするんです!」

その歌陽子の顔には、明らかにうんざりした表情が現れていた。

(#51に続く)