今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

成長とは、考え方×情熱×能力#46

(写真:ホワイトムーン)

筋書き

「ところで代表。」

今度は、三葉ロボテク社長、牧野から話を振ってきた。

「少々、我が社では妙なことになっておりまして。」

いかにも「直言居士」の異名にふさわしい切り出し方である。
この後の流れをほぼ想像できている東大寺克徳と彼の懐刀の村方は互いに目配せをした。

「代表もお聞き及びとは存じますが、我が社では毎年2月にロボットコンテストと言う催しものを行なっております。これは、私が社長を勤める前から続けられてきたものです。
どうしても、毎日の作業に追われていると、今ある技術、今あるマーケット、今ある製品の枠でしかものを考えられなくなります。それで、とくに若手技術者を中心にチームを作って、新しい発想のロボットを発表しあう場所を設けておるのです。」

その時、コン、コンと言うノックの音に続いて、

「失礼します」とドアの外から声がした。

それで、牧野は一旦話を切り、克徳は、

「たのむ。」と声をかけた。

ガチャリと応接の扉が音を立て、盆にコーヒーとケーキを乗せた歌陽子(かよこ)が顔を出した。

上品な和装に身を包んで、手慣れた手つきで「どうぞ」とコーヒーとケーキを据える歌陽子を、牧野は何度も見直した。会社で一度だけ会った時は、丸メガネの地味な女子社員のイメージしかなかった。
しかし、今の歌陽子は紛れもなく東大寺家の令嬢である。環境によって、自在に雰囲気を変えられる歌陽子に、やはり生まれ育ちは誤魔化すことができないと感心させられた。

一通りコーヒーを据え終わった歌陽子に、父親の克徳は、

「お前も、座って聞きなさい」と自分の隣に座るよう促した。
「失礼します」と言って、歌陽子は空になった盆を手にしたまま、克徳の腰掛けている肘掛け椅子脇のカーペットに膝を曲げて正座をした。
(なるほど、躾けも行き届いている。)
牧野は、歌陽子のちょっとした所作にも都度感心をさせられていた。

「失敬、続けてください。」

克徳に促されたが、目の前の歌陽子がこちらを真剣な眼差しで見つめている。これから話すことは当の歌陽子を目の前にしては少し話しづらい内容であった。

だが、せっかくこのような機会を与えられながら、活かせなくては実にもったいのないことである。
それで、意を決して牧野は言葉を継いだ。

「正直言えば、ここ数年、ロボットコンテストはすっかり盛り下がっておりまして、経費を使ってまでする意味がないと今年あたりは中止を検討しておりました。
ところが、村方さんを通じて、急遽代表が参加されると連絡を受けました。
実は私が受けるより先に役員どもが騒ぎ始めまして、全社に通達を回して参加チームを募ると言う、ちょっとした騒ぎになったのです。まあ、代表が参加されるのにみっともないところは見せられないと無い知恵を絞ったんでしょうな。
そうしたところ、いの一番にエントリーして来たチームがありました。それが、開発部技術第5課、つまりお嬢さんの担当しておられる部署のチームでした。」

ここまで、聞いて歌陽子は下を俯いてしまった。反対に、ニヤニヤしっぱなしの村方。事の次第が分かっているだけに、これからの展開が楽しくてしょうがないのだろう。

「役員から連絡を受けた私には、今回の筋書き、と言うか茶番が全て見て取れました。」

ついに、指をカーペットでなぞってもじもじし始めた歌陽子。牧野に茶番と決めつけられ、いたたまれない様子である。
克徳はそんな歌陽子を叱りつけた。

「こら!歌陽子。ちゃんと聞きなさい!」

仕方なしに顔を上げて、メガネ越しに牧野の顔をまっすぐに見る。

「あまり、上等な筋書きとは言えませんが、おかげで私は代表の考えておられる自立駆動型介護ロボット開発の交渉の場に引き出されてしまいました。
正直、お嬢さんが自立駆動型ロボットの開発に興味を持たれたのは聞いておりましたが、所詮は一課長のこと、握り潰せば良いと高を括っておりました。
そうしたら、思わぬ筋書きに乗せられて、のっぴきならないところまで出された訳です。」

相変わらず言いたい放題だな、と苦笑した克徳であった。そして、少し牧野に嫌味の一つでも言ってやろうかと思った。

「まあ、こんな世間知らずの小娘の策に乗せられて、さぞや悔しいことでしょう。もちろん、これは私が考えたこととは違いますよ。どちらかと言えば、私もこいつの筋書きに踊らされた方でね。
な、そうだろ、歌陽子?」

「そ、それは・・・。」

(ひどい!お父様。普通、ここで振る?)

(#47に続く)