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今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

成長とは、考え方×情熱×能力#30

(写真:水浴び)

不器用な愛情

まるでサスペンス劇場で死体を見つけた女子よろしく、歌陽子(かよこ)は口を右手で押さえ、身体を後ろにのけぞらせた。

「た、泰造さん!こんなところで何をしてるんですか?」

「メガネちゃん、たすけて。悪い奴らに監禁されてるんだ。」

「え・・・?」

「誰が悪い奴らだ、人聞きの悪いことを言うんじゃねえ。」

不機嫌そうな前田町の声。

その前田町はと見ると、椅子の上にあぐらをかき、腕組みをして、相変わらずの苦虫を噛み潰したような顔。
そして、机の下のポッカリ空いた空間に器用に詰め込まれた泰造。
しかも、後ろ手に縛りあげられ、足は体育座りの形に折り曲げられたまま紐できつく結わえられていた。

「ま、前田町さん、何してるんですか。早く出してあげてください。」

歌陽子が悲鳴のような声で頼めば、前田町がドスのきいた怖い声を出す。

「嬢ちゃん。」

「は・・・は・・・い。」

「あんた、その前に俺らになんか言うことがあるんじゃないか?」

こ・・・怖い。

「そ、その・・・ごめんなさい。」

「嬢ちゃんのプライベートがどうこうって話じゃねえ。嬢ちゃんも、もう大人なんだし、自分のやることのケジメくらい取れるよな?それで、もし間違いがあっても、そりゃ嬢ちゃんの自業自得だろうし、俺らの預かり知るこっちゃねえぜ。
だがよ、嬢ちゃんがこの馬鹿とつるんだのは、当然色恋抜きなんだろ?」

「・・・、そ、そうです。」

「そりゃないよ、メガネちゃん。」

「おめえは、だあってろ!」

「はい。」

「ならばよ、そりゃあくまで仕事の話よ。そうしたら、あんたは俺らのリーダーだ。
勝手に突っ走って、なんか不始末でもありゃあ、俺らにも迷惑がかかると思わなかったのかい?」

きたあ、仕事の鬼の正論モード。
これで来られたら、もう逃げ場はない。

「え・・・っと、はい・・・。」

「なんだあ、聞こえねえ。」

ひ、冷や汗でてきたあ。
か、帰りたい。

「あ、あの、軽率・・・でした。」

「とは言え、嬢ちゃんのやりそうなことくれえお見通しよ。だから、半分は嬢ちゃんを信用して、そのまま行かせたんだ。
だけど、日登美のオヤジに勘付かれちまった。
『なんか今、意味深なこと言いませんでしたか?』ってよお。
それで散々根掘り葉掘り聞かれて、この馬鹿が嬢ちゃんにデートしろとか言ってるのを白状しちまったって訳よ。
それで、しょうがなく嬢ちゃんの携帯をこっそり仕込んでおいたアプリからハッキングして、カメラやスピーカーを起動して様子を見てたのよ。」

「あ、悪魔だ。」

「おめえはだあってろ!」

「ど、どれですか?け、消してくださいよ〜!」

「まだダメだ。おいたがおさまったら消してやるよ。」

「そ、そんな〜。しょ、初期化してやる〜。」

半泣きの歌陽子。

「そしたらよ、嬢ちゃんがレストランに乗り込んだまでは良かったが、この馬鹿がでてきたあたりから、ドンドン雲行きが怪しくなったじゃねえか。」

「面目ないです。うちのバカ息子がとんでもないことを。」

「日登美のオヤジが落ち着かなくなって、こりゃ、この馬鹿にこれ以上好き勝手させちゃおけねえって、急いで嬢ちゃんのGPSを追いかけたのよ。
そして現場についたら、どうよ。
嬢ちゃんはもう帰ったあとで、この馬鹿が高いびきで寝てやがる。
それで、ふんじばってここに連れてきたのよ。」

「人権蹂躙だあ。」

「うるせえ、5回もトイレに行かせてやったじゃねえか。」

これは、あまりに非合法。懲らしめるにしてもやりすぎである。

「あの、前田町さん。ちょっと、これはまずいんじゃ。あまり、こんな無理な格好をさせておくと、血が通わなくなって足が壊死したりしませんか?」

「ちょっと待ちな。嬢ちゃんには、まだ話がある。」

やぶ蛇〜。

「俺にも嬢ちゃんを信用して行かせた責任はある。だが、散々周りを心配させておいて、素知らぬ顔でしらを切ろうってえ腹が気に食わねえ。そんな奴と仕事をしたところで、都合のいいことばかり聞かされて、気がつきゃあドツボってえのがオチよ。
あ?違うんかい?」

もう、何も返せない。
どうしたらいいの?

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい。」

「バカやろ、あんたのごめんなさいは軽いんだよ!」

「くっ・・・ううう。」

「あっ、泣かしちまった。いけないんだ。」

「バカやろー、てめえと一緒にすんな!」

ここで、日登美が割って入ってた。

「ちょっと前さん、歌陽子さんが可愛いのは分かるけど、いい加減にしときなよ。」

「てやんでえ、可愛いもんか。こんな出来そこねえ。」

「まあまあ。さっ、歌陽子さんも涙を拭いて。」

そう言って日登美は、ティッシュボックスからティッシュを一掴みして渡した。

「グジュ、ううう。」

涙を拭きながら歌陽子が少し落ち着いたのを見て、日登美は前田町に言った。

「前さん、泰造の縄を解いてくれないか?一度親子で話してみたいんだ。」

(#31に続く)