今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

成長とは、考え方×情熱×能力#28

(写真:命の歓喜)

娘ゆえの思い

シン、と頭の中で音がした。

少しづつ感情の糸を手繰り寄せるように歌陽子(かよこ)は気持ちを吐き出し始めた。

「野原に咲いているのは花だけじゃない。
雑草だって、苔だって、根っこだってあるじゃない。
だけど、皆んな花は踏まないように気をつけても、雑草には注意を払わないものよ。
花は大事にされるけど、雑草は粗末に扱われるわ。
だけど、花と雑草の違いは何なの?
花はきれいだけれど、草はきれいじゃないから?花は実をつけるけど、草は実をつけないから?
だけど、草だって踏まれたら痛いし、傷つくんだよ。
人間にも、花のように大事にされる人、誰からも傷つけられないように守られている人がいる。でも、ほとんどの人は、目立たないし、大事にもされないし、平気で傷つけあっている。自分が傷つけられて辛いクセして、それでもどうしても人を傷つけずにいられない。
弱くてずるくて、自分のことだけ大切で、花になりたいと願っても、草にしかなれなくて、だから自分なんか意味がないと思って、いっそこのまま死んでしまえたらどんなに楽だろうと思ったり、でも、自分が死んだらどんなにみんな悲しむだろうと思い直すけれど、でも自分なんか誰からも必要とされていないと落ち込んで、でも心の中引っかき傷だらけで、かさぶただらけで、それでも生きて生きて生きぬく。そんな草だもん。」

文章になどなりはしない。
まとまらない気持ちをただ言葉に乗せる。
だいたい、花や草と今の歌陽子に何の関係があると言うのか。
他人が聞いたら腹を立てるか、席を立つかしただろう。
しかし、父親である克徳は、ひたすら黙って聞き続けた。いつ間にかその双眸は閉じられ、とりとめない我が子の言葉に尊い真実を聞こうとするもののようにじっと耳を傾けていた。

「お父様。」

歌陽子は父親に呼びかけた。

「なんだ。」

ゆっくりと克徳は返事を返した。

「わたし、もうお父様の花じゃないの。悲しかったり、嬉しかったり、悔しかったり、傷だらけになったり、心はかさぶただらけで、そのぶん強くなった雑草なのよ。だから、雑草の気持ちがよくわかる。雑草の生えている場所がわたしの場所なの。」

歌陽子は、自分の父親に向かって親の世界からの決別を宣言しているのだった。

「そうか。」

少し寂しそうな音を含んで克徳は言った。

「だが・・・な、地に生える雑草の見られる世界と、空をかける鳥では見える世界が違うのだぞ。お前は花どころか、生まれつきそんか翼を持って生まれてきたのでないか。たった一度の人生もったいないと思わんか?」

「いいえ、お父様、わたしの世界はスノードームのようにきれいだけれど、狭くて作り物だった。自分の足で転んで、擦りむいて、泥だらけになって歩く世界は、楽じゃないけどホンモノの私の世界なんです。」

不意に克徳は半身を浮かし、身体を寄せると驚く歌陽子を抱き寄せた。

「お、お父様。」

「かまわん、親娘だ。なあ、歌陽子、お前はいつの間に大人になった?」

「え?成人式は今年でした。」

「ばか、そう言う意味じゃない。なあ、歌陽子、親はな、口じゃしっかりしろ、早く一人前になれと言う癖に、本心はいつまでも子供でいて欲しい、頼りなくて、いつまでも親の手を求めて欲しいと思うものなんだな。
私も偉そうに言う割に、なかなか親バカではないか。そうだろう?」

「お父様に限って。」

「いや、だから急に子供が自分の足で歩き始めると焦って足をすくおうとする。まさに、私がしていたのはそう言うことだ。」

「いいえ、そうではないです。お父様がこれまで愛情を満タンまで注入してくださったから、私は勇気を持って歩いているんです。」

「そうか。」

また、ポツリと言って克徳は歌陽子の身体を離した。

「歌陽子・・・。」

「はい。」

「あのお前を送り届けてくれた女性、連絡先は聞いているな?」

「はい。」

「ならば、きちんと礼をするんだぞ。お前が無事に帰ってこられたのは、彼女のおかげなんだろ?」

「はい、私のことを守ってくれました。」

「得体が知れないと言ったのは本心じゃなかった。」

「わかっています。」

「歌陽子。」

「はい。」

「あと・・・三葉ロボテクのこと、たのむ。」

「は!はい!」

思わぬ父からの労いに、歌陽子は力を込めて、返事を返した。

「あと、歌陽子。」

「はい。」

「スカートの丈はもっと長めにな。」

「は・・・はい、すいません・・・。」

(#29に続く)