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今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

成長とは、考え方×情熱×能力#23

(写真:夕陽の農場 その2)

終幕

「あ〜あ、いいとこまで行ってたのに。」

オーディエンスを挟んで会場の向こうから声を出したのは泰造だった。

「ジェイムス、もういいよ!」

泰造がDJボックスに向かって叫ぶと、おどろおどろしい音楽はピタリと止み、レーザービームが消えると同時に、会場全体の照明が点灯した。

目の前のゾンビ女は、明るいところで見れば、むしろ人懐こそうな優しい容貌の女性だった。
一時は勇気を奮ってゾンビ女に飛びかかった歌陽子(かよこ)だったが、今はすっかり気が萎えてまたヘナヘナと手をついて座りこんでいた。

その歌陽子にゾンビ女は手を差し出して、

「私、アケミ。昔のタイゾーの悪仲間。悪かったわね、カヨコちゃん。」

と声をかけた。

「え?なぜ私の名前を・・・知ってるんですか?」

「そりゃ、全部タイゾーが教えてくれたもん。あんた、あの東大寺財閥の御令嬢でしょ?」

「じゃ、いままでのは・・・。」

「そ、全部お芝居。急ごしらえだったから、随分変だったでしょ?でも、あんた本気で怖がってくれたから、それなりにやり甲斐があったわ。」

そう言って、アケミは人が悪そうに笑った。

「う・・・・。」

歌陽子は、いきなり肩をすぼめ、左手で右の二の腕を強く握って、小刻みに震えながら涙声で言った。

「ひどい・・・、みんなして私のこと、からかって、なぶりものにして・・・。」

ところが、逆に慌てたのはアケミの方だった。

「ちょっと待って。どう言うこと?あんた、こんなこと、なんでもないんじゃないの?
だって、タイゾーからは、東大寺歌陽子ってのはトンデモないお嬢様で、贅沢な遊びはやり尽くして、ちょっとやそっとの刺激じゃビクともしないって聞いてたのよ。」

キッと、アケミを睨んで歌陽子は、

「訳ないじゃないですか!もう、わたし・・・怖くって、怖くって、最後の方は全く記憶がないんです!」

半泣きの歌陽子をもて余してアケミは、

「ちょっと!タイゾー!どうなってんの?ちょっとこっちきて全部説明しな!」

と怒鳴った。
会場のオーディエンスはさっと左右に割れ、泰造の通り道を作った。
こちらへ向かう道すがら泰造は、

「こら、タイゾー、どういうこった?」とか、

「聞いてたのと違うぞ。」

と散々小突かれ責められていた。

「い、いてて。や、やめろ、ちゃんと説明するから。」

そう言いながら、会場前方までたどり着いた泰造は、またひらりとステージに上がった。

「メガネちゃん。」

「な・・・なんですか?」

下をうつむいたまま、固い声で答える歌陽子。

「あの・・・。」

鼻の横を指でかきながら、少し気まずそうな泰造。

「楽しかった?」

ボコッ!

アケミのグーのパンチが泰造の後頭部にヒットした。

「バカヤロ!まず、ちゃんと謝れ。こんなに泣かしやがって!」

「う・・・、う、うわああああ。」

アケミの言葉に堰を切ったように溢れた感情。

「わ、わたし・・・、好きでお嬢様やってるんじゃないもん。どうしてみんな、そんなふうにしか私を見られないの?
わたしが・・・普通の女の子だったら、・・・そんなひどいことしますか?」

「お、おい、よせって。」

歌陽子に大泣きされて、すっかり立場をうしなった泰造、おろおろしている。

しかし、歌陽子の感情は抑えが効かない。

「うわあああ。バカ、バカヤロー、どいつもこいつもゾンビに食われて死んじまえ!」

歌陽子がは、おそらく生まれて初めて口にする悪態の限りを延々と吐き出した。

「お、おい。メガネちゃん、ダメだろ。君は仮にも御令嬢なんだから。しかも、今日は女王様として来てるんだし。」

「な、なにが女王様よ!人をとって食おうとしたくせに!」

「だから、それは冗談って言うか。そう、アトラクションと思ってよ。ユニバーサルなんとかでもやってるじゃん。」

「私・・そう言うの大嫌い!」

その時、何か言いかけた泰造が急に後ろから引っ張られて尻餅をついた。

代わりに、

バン!

「済まねえ!許してくれ!」

と大きな音を立てて、身体の大きな男が手をついて土下座した。
それは、マサトシと呼びかけられた男性だった。

「歌陽子さん、全部このバカが始めたことだけど、面白がって乗っかったのは俺らだ。
あんたが、結構怖がってくれたから、ますます調子に乗っちまって、嫌な思いをさせて済まなかった。」

キリッと苦み走ったいい男。
さすがの歌陽子も、マサトシの男らしい侘びに、泣くのを忘れて聞き入った。

「いいえ、その、どうか手を上げてください。」

少し歌陽子が落ち着いたので安心したのか、マサトシは親しげに話し続けた。

「こいつら、なりは悪いけど、みんなカタギなのさ。昔はさあ、チームとか作って、さんざんドツキあったり、血を流したりしてたんだけど、今じゃ真面目に働いている奴らばっかりなんだ。
だけど、たまに集まっては悪ぶってウサを晴らしているだけだから、怖がらなくていいんだよ。」

マサトシのフレンドリーな笑顔と、低い落ち着いた口調に、だんだん歌陽子の顔に安堵の色が現れてきた。

「ちなみに、俺の仕事はケーサツカン。」

へ〜っ、警察。

「そう、日本一悪い警察官。」

そう、まぜかえしたのはアケミ。

「あんた、大丈夫?こんな娘ビビらせたら、ケーシソーカンに言いつけられるかもよ。」

「私、そんなことしません。」

あっ、「そんなことしません」じゃ、できるのにやらないみたいに聞こえる。

そんな世間離れした歌陽子のもの言いにも気づかないように、アケミは続けた。

「ちなみに、私は主婦。2人の子持ちで〜す。」

それは、それは、怒らせたら相当怖いお母さんなんだろうな。

そして、マサトシが話を引き取った。

「て、訳で。本当に済まなかった。この通りだ。」

そして、会場のオーディエンスを向いて、

「なあ、みんなも謝れ。」

と促した。

それに答えて、口々に、「すいませんでした」「ゴメンな」と会場中から声が上がった。

「い、いいえ。もういいです。」

いいながら、歌陽子はやっとニッコリと笑った。

マサトシは、尻餅をついてひっくり返っている泰造に向かって言った。

「あと、謝ってねえのは、お前だけだぞ。」

それて、泰造もしぶしぶ、

「ご、ごめんな。」

と謝った。

歌陽子は、ここぞとばかりに、

「泰造さん、私、ちゃんと約束守っておつきあいしましたからね。あなたも、私との約束を守ってください。」

と言った。
だが、泰造は奥歯に物の挟まったような言い方をした。

「あ、ああ。それは・・・、前向きに考えるよ。」

だが、マサトシはそれを許さない。

「ああん、ちゃんと約束したんだろ。守ってやれよ。じゃなけりゃ。」

じゃなけりゃ・・・?

「俺が、お前を撃ち殺す。」

そ、それはまずいんじゃ・・・。

(#24に続く)