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今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

成長とは、考え方×情熱×能力#20

(写真:天界の雑踏)

パーティ・ハイ

今はその場に行かなくても、住所さえ分かっていれば、そこがどんな場所かを知ることができる便利な時代である。
歌陽子(かよこ)も泰造から送られた住所をもとに、インターネットの地図を検索した。
目的の建物や、周囲の景観も写真で見て、決していかがわしい場所でないことは確認済みだった。
住所が指している場所は、歌陽子にとって、むしろ馴染みの深い高級レストラン。セキュリティもしっかりしていて、客層も選んでいる。一食10万以上と割高だが、評判を聞いて予約が引きも切らない。

予約たいへんじゃなかったのかな?

ひょっとして、コネを使って歌陽子に見合う場所を必死で確保してくれたのかも知れない。
そう思って泰造の熱意に答えなければならない気持ちにさせられたのも、歌陽子の足をここまで運ばせた理由の一つであった。

夜8時5分前、変身を完了した歌陽子は、彼女の真紅のフェラーリを待ち合わせ場所のレストランの前にとめた。
駐車場係と思しき制服の男性が急いで飛んでくる。
フェラーリの低い車体のドアを開け、歌陽子は車外に右足を下ろした。
エンジンをかけたまま、駐車場係に席を渡すと、歌陽子はレストランの店内に続くレッドカーペットを歩き始めた。
真紅のフェラーリをバックに、真っ赤なドレスに身を包み、絨毯を少し大股で進みながら、表情に自信を溢れさせた彼女は、まさに日登美泰造の手による合成写真から飛び出してきた女王だった。
こころなしか、絨毯の上で立ち話をしていたレストランの他の客も、彼女に遠慮して道を譲ったように思えた。

泰造は、どこだろう。
髪をかきあげる仕草をしながら、歌陽子は泰造を探した。

いいわ、案内の人に聞けば分かるもの。

だが、その声は思いもよらない方向から飛んできた。

「お〜い、メガネちゃん、そっちじゃなくてさあ。」

え〜、どこお?

声の方向を見てみると、泰造は歌陽子が車をとめた路上の真ん中に立って手を振っている。
しかも、前に会ったのと変わらないラフな格好で。変わったものと言えば、ティーシャツの絵柄が「freedom from life』から髑髏になったくらい。

「な・・・。」

歌陽子は思わず絶句した。

泰造さん、あなたはドレスコードと言う言葉を知らないの?

立ちすくむ歌陽子に泰造は、

「ごめん、そっちじゃなくて、向かい側の建物なんだよ。」

と言った。

えっ?向かい側って、あれ、倉庫じゃないの?

「早くこっちにおいでよ。」

泰造に促されて歌陽子は、渋々泰造の方に向かって歩き出した。
でも、背筋を伸ばして大股気味に、真っ赤なドレスが最高に似合うように堂々と。
どう?見てみなさい、泰造。これが私よ、と言わんばかりに。

泰造は手にした携帯を歌陽子に向けて、パチリと一枚。
そして、

「うわあ、すげえ。送った絵の通りじゃん。」

と、口笛まで吹いて一人ではしゃいでいる。
少し気持ちの醒めてしまった歌陽子。

「さ、女王様、エスコートしましょうか?」

「結構です!」

わざと泰造につっけんどんな言い方をしてどんどん倉庫のような建物に向かって歩きだした。
そして、その建物の重そうな扉の前に立って、ノブを下に押し下げた。
ギイと扉を手前に引いた途端、建物の中からは喧騒が飛び出してきた。

なんなの、ここ?これクラブ?

「さあ、何してんの。あんまり音が漏れると苦情がくるから、早く入った、入った。」

そう言って、扉を半開きのまま、たじろぎかけた歌陽子の背中を泰造がドンと押した。
つんのめるように中に入ったその中は、歌陽子にとっては初めての世界。
何十人の男女が手や足を振り回して踊り狂っている。
あかりを落とした店内にまばゆいレーザービームが縦横無尽に飛び交っていた。
鼓膜を破るような大音量の音楽と、それに合わせて何人かが、「ウオー」とか「ウワー」とか恐ろしげな奇声をあげている。
歌陽子は、昔見ながらついに目を開けられなかった怖いゾンビの映画を思いだした。

それに、なんてことなの!
こんな正装は私だけじゃないの。

クラブに集った男女は、泰造か、それ以上にラフな格好で、上半身裸なんて男もいる。

うっ。

思わず歌陽子はむせた。
苦手なタバコの煙を吸い込んだのだ。
その歌陽子をタバコをくゆらせた恐ろしげなメークの男がジロリと睨む。

すっかり縮み上がった歌陽子は肩をポンと叩かれて、

「ひっ。」

とひきつけたような声をだした。

それは、あの泰造だった。
そして、満面に笑みを浮かべてこう言った。

「メガネちゃん、俺たちのパーティにようこそ。」

(#21に続く)