成長とは、考え方×情熱×能力#12
日登美ジュニア
「はあい、どなた?」
インターフォンの向こうから物憂げな男性の声が響く。
しかし、歌陽子(かよこ)が名乗る前に、男性は言葉を継いだ。
「あ、いい、いい。間に合ってるから。」
ガチャ。
何で?一言も言ってないのに。
気を取り直して、もう一度マンションのエントランスのインターフォンを押す。
ピンポ〜ン。
ガチャ。
今度は聞かれる前に歌陽子から話し始めた。
「あのお、私、東大寺歌陽子と言います。お母様から聞いておられませんか?」
「ダメ、ダメ、今日は今から何とかって言うお嬢様が来るんだから。あんたみたいな学生の相手をしてる暇ないの。
どうせ、寄付集めかなんかでしょ。それとも、視聴料の徴収?」
また切られては敵わないので、勢い込んで歌陽子は喋ろうとした。
「あの、私が、その東大・・・。」
その時、後ろに立っていた前田町の怒声が歌陽子の頭を飛び越して行った。
「こらあ、泰造!さっさと開けやがれ!」
「ゲッ!前田のオジさん・・・。何で・・・?」
「ツベコベ言ってねえでサッサとしろ!3数えるうちに開けねえと蹴破るぞ!」
本当にやりそうである。
「1・・・2・・・3!」
ガチャリ。
小気味の良い音を立ててオートロックが解除される音がした。
「さ、嬢ちゃん、行こうぜ。」
「は、はい。」
エレベーターに乗って23階で降りると、そこはいくつもの玄関が並ぶ外廊下だった。
そのうちの一つから、扉を半開きにしてこっちを見ている男性がいる。
「お、おう、泰造、久しぶりだなあ。」
前田町が声をかけると男性はバタンと扉を閉めて中に引っ込んだ。
しかし、ズカズカと前田町は、その扉に近づくといきなりバン!バン!バン!とやった。
歌陽子はかなり慣れたが、前田町の行動は基本「乱暴」の一言である。
「わ、わかったよ。扉が壊れるよ。」
そして、あの男性がまた顔を出した。
「オジさん、普通にインターフォンがあるだろ?」
「うるせえ、おめえ昔から何かって言うとすぐ居留守を使いやがるだろ。」
「そりゃ、オジさんが無茶苦茶怖いからだよ。」
「怖いだあ、高校一年で暴走族の頭をしめた奴の言うことか。」
「昔のことだよ。それに、俺、前田のオジさんぐらい怖い人を他に知らないもん。」
思わず、コクリと隣で頷いた歌陽子。
「あ、そう言えば、今日は取り込んでるんだよ。母さんから連絡があって、何とか言う凄い財閥の令嬢が訪ねてくるんだ。
だから、あまり相手できないよ。」
「ほう?おめえ、その令嬢の名前を覚えてねえのか?」
「ん?待てよ。よく聞く名前だったな。えっ・・・とうだい、何だっけ?」
「東大寺。」
たまらず歌陽子が口を挟んだ。
「そうそう、東大寺。東大寺財閥なんて、未だにそんな人種が生き残っているなんて驚きだよ。でも、凄いお金持ちだって言うし、いつか俺が独立したらスポンサーになって貰えるかも知れないしね。」
「せいぜい、媚を売っておくこった。」
「あのさ、なんで東大寺の令嬢のこと、母さん知ってたんだろ?」
「おめえのおっ母さんじゃなくて、俺たちの知り合いなのよ。一応、東大寺は俺たちの会社の筆頭株主だからな。」
「そっか、じゃあ、オジさんも東大寺の令嬢に用事があって来たの?」
「まあ、そんなとこだ。」
「じゃあ、その令嬢が来るまで中に入って待つ?」
「泰造、おめえ・・・。」
「何?」
「アメリカで成功してちっとばかし小金を稼いだらしいが、まだまだてえしたことねえな。」
「オジさん、それはどう言う意味?」
少し気色ばんだ泰造に、前田町は歌陽子の右腕を掴んで、彼の目の前に突きつけた。
「う、うわあ。ロレックス!しかも100万くらいするやつ。」
「どおでえ、この嬢ちゃんが誰だか分かったか?」
強く掴まれて痛かったのか、腕をさすりながらも歌陽子は恥ずかしそうに自己紹介をした。
「あの、私が東大寺歌陽子です。」
(#13に続く)