成長とは、考え方×情熱×能力#2
思案
「そんな面倒なこと考えてねえで、正面からバンとぶつかったらいいじゃねえか。
あんたは、東大寺グループの印籠を持たされたんだろ。」
「野田平くん、なかなかそう言う訳にはいかないんですよ。
例えば、東大寺グループの葵の御紋をかざして頭が高い!とやったとします。
そうすれば、社長と言えど、嫌々でも承諾するでしょう。
しかし、問題はその後です。
このプロジェクトは、私たち開発部技術第5課が中心になって推進することに意味があります。と言うことは、今後も歌陽子(かよこ)さんが中心になって進めて貰わなければならないんです。
つまり、東大寺の一族ではなく、三葉ロボテクの社員として社長に納得して貰う必要があるんですよ。」
「めんどくせえなあ。」
野田平と日登美の掛け合いを人ごとのように聞きながら、歌陽子は机に頬杖をついた姿勢を崩さなかった。
ホント、どうしたらいいの?
ルートとしては、上からと下からの二つしかないのはわかる。
上からとは、東大寺の名前を出して、直接社長に申し入れること。
プロジェクトが始まった後の資金や支援体制は村方さんが保証してくれているし、経営権を握っている東大寺に逆らえるはずがない。
一番簡単に思えるけれど、そのプロジェクトをそのまま開発部技術第5課が引き継いだら、社内の反感を招くに違いない。
「どうせまた、お嬢様が父親にないものねだりをして、格好だけの実績を作ろうとしているんだろう。金にあかせて形ばかり取り繕って、時間と資金の無駄遣いだ。そんなことに、誰が協力などするものか。」
自分が逆の立場だったら、きっとそう思う。
ここで孤立してしまったら後が続くはずがない。
ならば、きちんと課長としての筋を通して、会社を納得させるか?
ああ、それもハードルが高過ぎる。
なにしろ、この間の屋上ヘリコプター事件以来、すっかり会社では浮いてしまったし、まともに上申などして、とても取り合って貰えるとは思えない。
それに、正規のルートを通していたら時間がかかり過ぎる。
うちの会社はトップダウンは異様に早い割に、エスカレーションは牛の歩みなんだ。
稟議が半年も上司のところで止まっていることはザラにあるらしい。
あとは、社長に直訴しようか。
いや、江戸時代であるまいに。
それで、睨まれでもしたらますます実現は遠のきそう。
やはり、ここは村方さんの力を借りて・・・。
いや、やっぱりよそう。
お父様は、私の力を見ているんだ。
あっさり、村方さんに泣きついたら、すぐ落第点を付けられるに違いない。
方針が決まらないまま過ぎていく時間がジリジリと痛い。
どうするの?
どうやるの?
どうしたら、皆んなとの約束を果たせるの?
その歌陽子の頭をポンと叩いて、前田町が声をかけてきた。
「ん?あ、前田町さん。」
「まあ、嬢ちゃん、あんた一人で抱え込んでもロクな答えは出やしねえぜ。」
「でも・・・。」
「メンバーをうまくまとめて、いい仕事させるのが、本来のリーダーってもんだ。
自分に知恵がなけりゃ、知恵のありそうなヤツに聞けばいい。」
「じゃあ、前田町さん、何か良い打開策は有って?」
「はは、俺か。こんなジジイでも、あんたには知恵袋ってことか。
じゃあ言うが、全く道が無いわけじゃねえ。」
「ホントですか?」
「ああ、本当だ。俺らが堂々と大手を振って社長連中にものを言えるチャンスがあるぜ。」
「それって、労使交渉ですか?」
「ん?ガハハハハ、そりゃあいい。確かにそうだ。だがよお、俺らロートルにはちいっと場違いだぜ。」
歌陽子の答えが余程面白かったのか、前田町は普段に無く大きな声で笑った。
「あのよお、ロボットコンテストって知ってるか?」
「ロボットコンテスト?」
(#3に続く)