今日学んだこと

生きることは学ぶこと。オレの雑食日記帳。

成長とは、考え方×情熱×能力#1

(写真:ちぎれ雲 その2)

ミッション

東大寺歌陽子(かよこ)は、20歳。
短大を出て、今の会社、三葉ロボテクに入社して半年あまりが過ぎた。
会社の制服に着替えて、普通にロビーですれ違えば、どこにでもいる新人女子社員である。

身長は161センチ、体重は45キロ。
チビてもいなく、痩せすぎでもないが、全体に華奢な印象を受ける。
それは、不似合いに細い肩や腕や足、そして作りの小さな手のせいだった。
頭の作りは大きくはない。ただ、肩の上まででボブにまとめた髪にかなりボリューム感があった。「遊郭の禿が今でもいたら、きっとこんな感じだったろう」と言う人もいる。
その髪が歌陽子が動くたびによく揺れた。
そして、髪の毛の中の顔のパーツ一つ一つはどれも小さかった。小粒だけど、ピカピカよく光る目。小さな鼻と小さな口。尖った小さな顎。
そして、顔の真ん中にトレードマークのヴィンテージの丸めがね。少しずり下げためがねの上から、目の上三分の一で覗き込んでいる印象がある。
顔はいつも少し紅潮をして、赤みがかっていた。実年齢を知らなければ、まだ15、6にしか見えないだろう。
制服は会社からの支給品だか、下に着込んだ折り目のついたシャツや、細い腕にチェーンで巻きつけた腕時計、細い足をさらに細く見せている黒いタイツ、そして足元の靴も、庶民が買わないような高級品に身を包んでいた。

彼女は、会社の他の女子とは家庭環境が違う。歌陽子の父親は、日本屈指の財閥の当主であり、バイオで世界をリードする医療系企業グループのオーナーであった。
そして、当三葉ロボテクの筆頭株主で、経営権まで掌握していた。
その三葉ロボテクに、歌陽子は半年前に新入社員兼いきなりの課長職として入社した。
最初は、「自立して社会で働きたい」と言う歌陽子のワガママをたしなめるため、世間の厳しさを教えるのが目的だった。
しかし、放り込まれた厳しい環境に歌陽子はよく耐えた。職場の人達とも絆を深め、当初の父親の目論見は外れた。
ならば今度は歌陽子がどこまでできるか試してみようと言う気持ちになった。

歌陽子に与えられたミッションとは。

東大寺グループが医療でロボティックスに参入するため、自立駆動型介護ロボットの開発プロジェクトが持ち上がった。東大寺グループには、三葉ロボテクを筆頭にロボティックス分野に精通している企業は何社もあったが、自立駆動型と言うハードルにどの会社も手を挙げ兼ねていた。
そこで、産業ロボットの専業である三葉ロボテクが積極的に関与し、プロジェクトのリーダー的役割を果たして貰うよう東大寺の右腕である村方が説得に派遣された。
旧知の仲の村方からその経緯を聞かされた歌陽子は、冷や飯を食わされている自分の部署に再び光が当たる好機と考え、非情な関心を示した。
そんな歌陽子を見て、村方は父親の東大寺克徳に「歌陽子お嬢様に、三葉ロボテクの説得を任せてみたらどうか」と進言した。
東大寺克徳は、父親として娘の成長に触れ、彼女がどこまでやれるかを量ろうと考えた。
そこで、一時的に本件限定の東大寺グループの代表権を彼女に与え、三葉ロボテク側の説得に当たらせることになった。
一課長が、社長と会社の事業について交渉する。そんな無茶な話に歌陽子は、すっかり縮み上がったが、彼女の仲間たち、野田平、前田町、日登美ら三人に背中を押されて、このミッションに取り組むこととなった。
いよいよ歌陽子のプロジェクトが始動するのである。

(#2に続く)