今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

克服すべきは恐怖心ではなく、依存心である#3

(写真:黒のベール)

歌陽子の高揚

「それで、結局その仕事受けてきたんですか?」

「え、無理無理無理、無理ですう。だって、私一介の課長ですよ。そんな会社の事業に関わることを簡単に受けられません。それに、私の後ろには会社の重役の皆さんがズラーッと並んでましたし。」

「はっはっは、そりゃ見もんじゃねえか。なんで俺らを呼ばなかったんだ。」

「ふん、東大寺の令嬢ってのも伊達じゃねえんだな。ここじゃ、しがないコーヒー係だってえのに。」

歌陽子(かよこ)は、野田平、前田町、日登美ら3人の老技術者を前に、今日村方から聞いてきた内容の説明をした。

「東大寺グループ代表、つまり私の父ですけど、医療分野に強みがあることを活かして、今度はロボティクスでもビジネスを拡大したいと考えているんです。」

「次から次とよく考えつきやがるな。まあ。それだけ大食らいでなけりゃ、大企業ってえのはガタイを維持できねえってことだな。象とおんなじだぜ。」

あいも変わらず苦虫を噛み潰した顔で聞いている前田町だったが、今は一番頼れる歌陽子の味方だった。

「だけどよう、嬢ちゃん。」

前田町は歌陽子を嬢ちゃんと呼ぶ。親愛の情の表しているらしい。

「あんた、あれだけ毎日オヤジさんの顔を見ていて、父親が何を考えているのか知らねえのかよ?」

歌陽子は、少し苦笑いをして続けた。

「父は私や母が少々お金の無駄遣いをしても笑って許してくれる寛大な人なんですけど・・・。」

「待てよ、その少々ってどれくらいだよ。」

野田平が話の腰を折る。

「え、だいだい2、3千万くらいなら。」

「2、3千万?しかもこともなげに。ちっ!狂ってやがる。」

思わず野田平に喋らされたことを歌陽子は後悔した。しかし、当たりがソフトな日登美が助け船を出してくれた。

「野田平くん、まあ、最後まで聞いてやろうよ。」

「あ、ああ、そうだな。」

「あの、父は女の私や母が仕事のことを聞くのを凄く嫌がるんです。多分、家に居る時くらいは仕事のことを忘れたいんだと思います。」

「そう言うことか。だけど、嬢ちゃんが俺たちにこんな話をするってことは、何か魂胆があるんだろ?」

魂胆って・・・。
でも、確かに、私はあなたたちにお願いしたいことがある。

「父は、この介護ロボットを自走するだけではなく、自律駆動にしたいんです。つまり、自分で考えて介助が必要な人の手助けをするような未来のロボットです。」

「なるほど、至れり尽せりってことだな。しかし、そうすると・・・。」

そう言って前田町は腕組みをした。
そして、日登美が言葉をつないだ。

「確かに、それは車の自動走行を、介護ロボットに置き換えた話ですからね。基礎研究だけで10年近くかかる可能性があります。どの会社も尻込みするのは分かります。」

「10年・・・。」

「そう言うことだ。会社の若えヤツラがやるなら問題ねえが、こんな死に損ないのやる仕事じゃねえ。」

「ですが・・・。」

そこで、歌陽子は意を決して言った。

「例えば、ロボットが自分で考える、そう人工知能の部分は専門家に任せて、センサーやモーター制御の部分なら皆さんの経験が武器になります。」

「そりゃ、間違いない。」

野田平が珍しくまともに応じた。

「あ、あの、怒らずに聞いてください。皆さんは、業界でも指折りのロボット技術者です。なのに、こんなところに閉じ込められていて悔しくありません?」

「当たり前のことを聞くんじゃねえ。」

わずかだが怒気を含んだ低い声で前田町が応じる。
それに気をくじかれそうになりながらも、歌陽子は勇気を振るって言葉を継いだ。

「あ、あの・・・、だからです。基礎研究で終わるかも知れませんが、皆さんの技術を次世代につなげるなら、こんな素晴らしいことはありません。それに基礎研究と言っても一社でするわけではありません。東大寺グループのコネクションで人工知能の先進企業と共同研究すれば、基礎研究の期間はもっと短くできます。
え・・、あの・・・?」

前田町がさっきから不思議なものでも見るように歌陽子の顔をマジマジと見つめていた。

「うん、いやな、嬢ちゃんもそんな顔をするのかと思ってな。なんか、目なんざキラキラさせて、一端の大人の女に見えるぜ。」

ハッ。
思わず歌陽子は頰に手を当てた。
上気した頰は熱を帯びて熱かった。

「あ、あたし・・・。」

「いいってことよ。だけど、なんだか嬉しかったぜ。まあ、まずはその村方って野郎からもう少し詳しく聞かせて貰おうか。」

「は、はい!有難うございます。じゃあ、早速。」

「お、おい・・・。チッ、若え奴は堪え性がねえなあ。」

歌陽子は、携帯を取り出して聞いておいた村方の連絡先を呼び出した。

トゥルルルルルル!
ガチャ。

「あ、村方さん、歌陽子です。あのお話ですが、開発部第5課のメンバーに話をしました。村方さんのご都合の良い時に伺います。
え・・・?今からですか?
え?こ、困ります。えーっ!!」

その時、窓の外からバラバラバラと爆音が聞こえてきた。

(#4に続く)