今日学んだこと

生きることは学ぶこと。オレの雑食日記帳。

懲りないところが良いところ

(写真:流れ行く京都)

怒られても、怒られても

「こらあ、またお前か!ちょっと来い!」

「あ、あの、すいません。」

「すいませんじゃないだろ。この業界入って何年になるんだ?」

「え、と、あ、5年?」

「バカ!27にもなって可愛く言えば許してもらえると思うのか!」

「い、いえ、そんなつもりは・・・。」

「まあいい。それよりこの企画書は何だ?」

「あ、それ、今度こそ行けると思うんですよね。」

「どこがだ!『◯◯県の菜の花スポット10を見に行こう』なんて、菜の花なんてどこでも咲いているだろう。なんで、わざわざテレビ局が芸能人まで呼んで放送しなければならないんだ。」

「だって、菜の花きれいじゃないですか。あ、春が来たんだなあ、ってウキウキしません?それに、いくら身の回りにあるからと言っても、見渡す限り一面の菜の花畑なんて滅多にお目にかかりませんし。」

「あのな、新聞の番組欄に『◯◯市役所の一日』とか、書いてあってお前、番組録画押す?」

「え、しないです。」

「だから、おんなじなんだよ。お前の発想。」

「でも、菜の花は・・・。」

「お前の!個人的!趣味は!どうでも!いいんだ!
俺たちの仕事は数字取れてナンボだろ!
お前みたいなヤツは、一生ADをやってろ!」

学習しない動物と学習する人間

「あはは、怒られちった。」

「君も懲りないねえ。今月何回目?ちょっと企画書出すのを控えたら?」

「ダメダメ!ちゃんと企画書を出し続けないと、認められるものも認められなくなるもん。」

「だからって、このままじゃ、ますます心証悪くなるし、下手すりゃ制作局から配置換えされるかも知れないよ。」

「う〜ん、それはそうだけど。だけど、せっかくやりたかったテレビ制作の仕事ができてるし、私なりに一生懸命やるとどうしてもこうなっちゃうんだ。」

「普通怒られたらどこが悪かったか反省するとか、怒られないように考えるとかするだろ?犬とか猫なら、叩かれたらキャンとかニャーとか泣いて逃げるだけだけど、人間なら二度と怒られないように対策するだろ?」

「あのさ、私ってもしかして、学習能力欠如してる?」

「犬や猫は例えだって。そんなに言葉通りに受けとらないでくれよ。」

懲りないところが良いところ

「私ね、一応怒られたら反省はするんだよ。こう変えたらいいか、あそこを直そうとか。本当にご飯が食べられなくなったり、夜眠れなくなったり、それくらい真剣に悩むんだから。」

「へえ、はじめて聞いた。いつも色艶がいいから悩んでなんかいないのかと思ってた。」

「ま・・・ご飯が食べられないのはウソだけど、それなりに真剣に悩むんだから。」

「なら少しは自分を変えられた?」

「それがさ、今度こそはと企画を考え始めるんだけど、最後にはいつもおんなじ感じになるのよね。才能ないのかな?」

「あのさ・・・、ひょっしたら、君まっすぐなだけかもね。君の中に本当に視聴者に届けたい絵があって、どうしてもそれに嘘がつけないだけなのかも。」

「そうなのかな、不器用なだけかも知れない。」

「それとも、いくら怒られてもメゲずにやれるのはある意味才能だね。『懲りないところが良いところ』ってね。それに、最近、君の企画の隠れファンがいるって噂だよ。」

「まさかあ、だって一つも通ってないのよ。どこで見てるの?」

「さあ。でもディレクターがシュレッダーの前に積んでおくと、たまに君の企画書だけが抜き取られているそうだよ。誰かがシュレッダーをかけられる前に守ってくれてるんだよ。」

八転び九起き

「え!制作局長がお呼びなんですか?」

「ほら、言わんこっちゃない。ついに上からも来たぞ。」

「ねえ、どうしよう。」

「しょうがないだろ、腹を決めて行ってきたら。女は度胸ってね。」

・・・

「入りなさい。」

「失礼・・・します。」

「なぜ呼ばれたか分かっているかね。」

「はあ、なんとなく。」

「まあ、こっちにかけたまえ。まず、これは君の企画書だよね。」

「あ・・・その・・・そうです。と言うか、とっくにディレクターに捨てられたかと思っていました。」

「まあ、それもしょうがないだろうな。この『◯◯県の菜の花スポット10を見に行こう』じゃあね。その、もう少しタイトルをひねり給え。」

「タイトル・・・ですか。」

「そう、タイトル。」

「それって、ひょっとして内容は合格点とか?」

「ダメ!全然不合格。」

「ですよね。」

「でも、私が君を呼んだのはそんなことを言うためじゃない。」

「え?あ、それ、みんな私が出した企画書です。」

「そう、よくもよくもこんな企画書を、『ふざけるな』と言いたい。でもね、またまだ合格には程遠いけど、この半年急に内容が良くなっている。」

「あ、ありがとうございます。」

「それに、そもそも、他がやらないことだから、上手くできないのは仕方ないとも言える。あえて奇をてらわない、かと言って安直に鉄板ネタに逃げない。僕らのすぐ隣にある凄く良いものにスポットを当てようと言う視点はいいんじゃないか。」

「そう・・・そこなんです。どこか海外や国内の有名観光地にいかなくても、県内でも凄く良いスポットがあるんです。それを発見して貰いたいんです。商業化されて、どこへ行ってもおんなじで、だから意地になって有名スポットを消化する旅より、身近なローカルスポットの良さに気づいて欲しいんです。」

「そう、若い人はそれくらい元気があった方がいい。企画書はまだまだだけどね。」

「あ・・・すいません。」

「いや、期待しているよ。僕も実は君の企画書のファンなんだ。結構いつも楽しませて貰っている。」

「が、頑張ります!」

「そう、そうその意気で早く一人前になってくれ。」