読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

心を開くマジックワード

(写真:難波の夕暮れ)

頑なな人

「よくお越しになりましたね。」

「ああ。」

「どちらから、お越しになりましたか?」

「まあ、近くじゃ。別にどこからでも良いじゃろ。」

「・・・今日はどなたとお越しになりましたか?」

「一人じゃよ。一人の参加はいかんとどこかに書いてあったか?」

「い、いえ、そんな。」

「わしは一人がいいんじゃ。ほっといてくれ。」

「いや、そう言うわけには。」

「いいんじゃ、わしは一人が好きなんじゃよ。それより他の連中の世話をしてやってくれ。ほら、向こうで呼んどるぞ。」

何かお手伝いできることはありませんか?

「先ぱ〜い。あのおじいさん、ぜんぜん心を開いてくれませ〜ん。他の皆さんも、どう扱ったら良いか困ってます。」

「そう、たまにあんな人いるのよね。でも、本人もほっといて欲しいみたいだし、しばらくそのままにしておいたら。」

「い、いいえ。そんな訳には行かないです。あのおじいさんの周りだけ空気が重くて、みなさん気まずい思いをしてるんです。
せっかく楽しみに来られた方々に申し訳ないです。」

「それもそうね。分かったわ、私がなんとかする。」

「お願いします。」

・・・

「あの、何かお手伝いできる事ことはありませんか?」

「手伝うって、あんたがか?」

「はい、なんでもおっしゃってください。」

「ほう、なんでもかい?」

「はい。」

「ならば、こんなくだらん会はすぐに中止にしてくれんか?」

「はいっ。」

「はいって、あんた本当にできるのか?」

「はいっ。主催者側に今から掛け合って参ります。」

「ほう、面白い。じゃあ、早速やってきて貰おう。」

「分かりました。ただ・・・。」

「ただ、なんじゃ?」

「主催者に理由を聞かれたら、何と答えましょう?」

「何じゃと?何でもすると言ったのは、あんたじゃろう?」

私の仕事

「はい、申しました。」

「なら、さっさと主催者のところとやらに行って来んか。」

「申しましたが、何をするでも必要なものがあります。例えば、車はどこへでも連れて行ってくれる便利なものですが、やはりガソリンがなくては走りません。
私たちも、来られた方の何にでもお役に立ちたいのですが、それをするには理由が必要です。」

「また、くだらん屁理屈を言いおって。できんのなら最初から調子の良いことは言わんことじゃ。」

「いいえ、出来ないことなら出来ないと申します。ここに参加された皆さんがお困りのことがあれば何とかして差し上げるのが私たちの仕事です。出来ないのではなく、条件が揃わないから今は難しいだけなので、その条件が揃うように努力をしますし、必要ならばご協力もお願いしています。」

「分かった!じゃあ、理由を言うから、その時は必ずお開きにするな?」

「はい、もちろん。」

心を開くマジックワード

「よ、よし。分かった。言うからな。
わしはなあ、もう20年も前に連れ合いを亡くして、ずっと独り身なんじゃ。子供もできなかったし、細々やっていた商売も畳んで、もう何もすることがないんじゃ。
それで、ある人がなあ、あんまり家に一人で籠っていると身体に悪いと、たまには人と交わるように誘ってくれたんじゃよ。
そうしたらなあ、あんた、誘ってくれた相手は向こうでスケべな顔したジイさんとベタベタしとるじゃないか。」

「つまり・・・ヤキモチ・・。」

「ナンジャとお?」

「い、いえ、何でもありません。」

「ふん!あほらしくて、すぐ帰ろうとしたのに、あんたらお節介なスタッフが引き止めるから帰れんようになってしもうたわ。」

「分かりました。なら、私が向こうの方に聞いて参ります。」

「え?お、おい、ちょっと待て!こら!よさんか。」

「あの、聞いて参りました。」

「ぐっ・・・。」

「あの手を振っておられる女性ですよね。あなたを待っておられたようですよ。」

「嘘つけ!」

「ホントですって。一緒の方はお友達のご主人で、一緒にお連れさんを待っていたんですって。」

「お連れさん・・・って?」

「またあ、あなたのことですよ。」

「そ、その、何だ。世話になった。」

「いいえ、仕事ですから。」

・・・

「先輩、すごおい、どうやったんですか?」

「私には、秘密のマジックワードがあるの。」

「へえ〜っ、教えてください。」

「あのね、『何かお手伝いできることはありませんか?』って言ったの。」

「え?それだけ?」

「そう。じゃあ、あなた何て声かけたの?」

「そりゃ、どこから来たんですか?とか、誰と来たんですか?とか。」

「それじゃ、ダメよ。それだと、初めてで不慣れな人には上から目線に思われるわ。
あくまで、目線は相手と合わせて、そして、この人、自分のために何かしてくれようとしているな、と思ってもらうの。」

「そうですよね。」

「それに、『何かお手伝いできることはありませんか?』って疑問形でしょ。相手も考えるから、積極的に関わって貰えるのよ。」

「さすが先輩お見それしました。」

「まあ、奥義を一つ伝授したんだから、早く一人前になってね。」

「はあい。」