今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

引き際で信頼を得る

(写真:宵待ちの鉄塔)

残念ですが、ご縁がありませんでした

商談はいつも成功するわけではありません。
むしろ、成立した商談と不成立に終わった商談を比べると、1対3とか、1対5の比率になっています。
つまり、10件案件を抱えていたら、7〜8件は「残念ですが、ご縁がありませんでした」を聞かねばなりません。
だから、8件は失注するのを前提で、いかに失注案件を見極め、受注できる案件に力を集中するかが営業技術として大切になります。
そのため、「営業マンは断ることを覚えなさい」と、案件の選び方を指南したビジネス書まで存在します。
とは言え、ご縁のなかった案件もそれなりに時間を費やしています。せっかくの時間ですから、少しでももとを取りたいものです。

士官を逃した宮本武蔵

吉川英治「宮本武蔵」の中に、武蔵が将軍家指南役に推挙されるエピソードがあります。
沢庵和尚ら実力者の推挙もあり、まずお取り立ては間違いなしと、周りは尾頭付きの鯛を用意します。そして、沙汰を受けるために控え所に赴く宮本武蔵を送り出しました。
控え所でしばし沙汰を待つように言い渡された武蔵は、そこで小半日もの間待たされます。
やがて、川越藩主 酒井忠勝が彼の元を訪れ評定の結果を伝えました。
「にわかに此度の士官の儀、見合わせに相成った。」
武蔵に恨みを持つものたちの心無い流言が、やがて幕閣の耳にも届き、彼の士官を妨げたのでした。
それを潔く受けた武蔵に感じたのか、酒井忠勝は、「そなた、武人に似合わず風雅の嗜みがあると聞く。俗人どもの陰口で此度のこと縁のないことと相成ったが、毀誉褒貶を超えて、そなたの誠の心を画に表して将軍家に残しては如何が?」と勧めました。

相手に残念がらせる引き際

その言葉に武蔵は、部屋の隅に置かれた何も描かれていない六曲屛風に目を止め、これに自分の心情を表そうと上等な墨を所望しました。
しばらく後、さながら試合の後のように大きく息を吐き出して、さも満足げな表情を見せた武蔵は、そのままさっさと退出をしてしまいました。
そして、後には武蔵の描いた一幅の屏風絵が残されていました。
そこには墨一色の武蔵野の図と、唯一紅の旭日が描かれていました。
それはまるで、将軍家指南という英達の門に収まり切らぬ、宮本武蔵の大きな志を表しているようでした。
武蔵が辞した後、その屏風絵を見た酒井忠勝は、さも残念そうに「ああ、野に虎を逸した」と一人つぶやいたのでした。

引き際で信頼を得る

あまりに鮮やか過ぎる武蔵の引き際、そして残した鮮烈な印象。
それが酒井忠勝をして、「ああ、惜しい人物を野に逃した」と言わしめたのでしょう。
もちろん、これは吉川英治氏の創作の中の話です。
しかし、できれば私たちも引き際は武蔵のように鮮やかに印象を残して去りたいものです。
断ったのに、自分たちに有用なアドバイスを惜しまなかった。そして、もう自分たちの案件ではないのに、プロジェクトがうまく行くように協力を申し出てくれた。
「ああ、あそこと組めば良かったかな。」
そんな気持ちを抱かせることができれば、必ずしも商談は失敗ではありません。
武蔵は去って、そのまま将軍家とは縁がありませんでしたが、私たちはお客さんが必要な時にいつでも声をかけてもらうことができます。
売るだけが営業ではありません。
断られるのも営業です。
特に、お客さんが情報の主導権を握っている今の時代、モノやお金でなく、そのように気持ちでつながれたら素晴らしいと思います。