読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

遠いテーマを目指す時代(中編)

(写真:ウロコ雲)

星を行く船

星間エンジニア、つまり、宇宙への進出を使命とした科学者、及びその技術に携わるものたちのことである。
20世紀の中盤、人類はもっとも近い天体である月に降り立った。
その時は、次は火星、その次は木星と人類全体がはるかな天体に思いを馳せていた。そして、再び15世紀以降の大航海時代の熱気が到来すると皆んなが高揚した。
しかし、人間が宇宙を目指すことは余りに莫大な経費とリスクを必要とした。そのため宇宙開発は、地球の重力圏内での人工衛星や宇宙ステーションの開発がメインとなり、採算性の中で通信基地やラボラトリー機能としてのみ拡大して行った。
対して、人間を外宇宙に送り出すと言うサイエンスフィクション的な計画はいつしか凍結されて行った。
それでも、今から150年前、科学アカデミーに外宇宙への進出を強く訴えた長老がいた。その甲斐があって、星間を航行する技術に細々ながらも研究のための予算が認可された。
彼ら外宇宙を目指すエンジニアは、ごく限られた特別な存在となり、人工知能の助けを借りながらも、なけなしの予算の中で細々と星間を飛ぶためのエンジンを開発し続けた。
それはまるで何世代もの間、職人たちに引き継がれ完成されたバルセロナのサグラダファミリアのようであった。
件の北欧系の容姿の科学者は、その星間を目指すエンジニアの一人であった。
彼は連綿として継がれてきた宇宙エンジンの開発をこの時代に受け継ぎ、次世代につなぐ技術者なのである。
自分の世代に成果を見ることもなく、故に賞賛されることもない、しかし、星の海への情熱が彼らを動かしていた。

300年後

それから時代を下ること、更に300年。
にわかに彼ら星間エンジニアの存在が衆目を集めることとなった。
それは、はるか彼方の星雲から広がった波紋が、地球の属する太陽系にまで届いたからである。
その星雲とは、我らの銀河系から50億光年の距離にある。そして、遡ること約50億年前、その星雲に属する白色矮星が無数の光の矢となって宇宙に四散した。
それを地球の天文学者が宇宙の揺らぎの兆候から発見したのは、実に光の矢が太陽系に到達する100万光年手前であった。
その光の矢が届けば、太陽系の中心に位置する星々の盟主、すなわち太陽を射抜くことになる。その時、太陽からはかつてない強力な太陽風が放出される。それは、成層圏すら防ぎきれない凄まじい熱波となって地球に襲いかかり、地上を灼熱の地獄と変える。
その時、どんな強固な文明も、また最も繁栄した種族もたまらず、たちどころに焼き尽くされてしまうだろう。
すわ、一大事。
計算結果を見た天文学者は、人類の命運はあと100万年に極まったと震え上がった。
わずか1万年の文明も持たぬ種族が100万年の先を心配をすることこそ滑稽であった。
しかし、人間は理性より、感情に突き動かされる生き物である。
何世紀ぶりに訪れた人類存亡の危機の報に、再び外宇宙へ生存の道を開こうと、宇宙開発への熱気が高まった。
そして、わずかに限られた人数の星間エンジニアたちが俄かに時の人となったのである。

(後編に続く)