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今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

すぐ承認される企画はロクなものでない(其の参)

(写真:名物、たまご串)

ニ衛門の策略

ニ衛門こと、二宮郷衛門は表を上げ、自信を満面に漲らせて言った。
「むしろ、このようなお召し少々遅うございました。早く拙者にお申し付け下されば、殿にここまで憂き思いを許してはおきませなんだ。」
「ほう、頼もしいのう。そちに何か妙案があると言うのか。」
「左様でございます。
そもそも、我が方が結城団右衛門ごときを攻めあぐねておるのは、かの出城が険しき岩山の上に築かれており、そこに至るまでの道が左右を断崖に挟まれたたった一本の隘路であるためです。
ゆえに手勢を繰り出しても、一度に敵にかかれるのはごく少数に過ぎず、加うるに出城や崖の上からも頭上を攻められまする。かように、地の利が相手方にあるため、徒らに兵を失うことを畏れて手をだしかねておりました。
なれど、一騎当千の強者を正面に立てて進まば、なんの相手が何人かかろうが遅れをとるものではありません。また頭上からの攻めも夜陰に紛るれば思うに任せないでしょう。
さらに、もう一手。
九郎判官義経に習って、牛攻めの計を行いまする。」
「牛攻めの計とな。」
「左様にござる。
すなわち、夜陰に乗じて何十頭の牛どもの角に松明を括りつけ、出城に向けて放つのでござる。すると敵方は我が方の兵が攻め寄せたように思い、秋津方は慌てふためくでござろう。
奴らがそれに気を取られている隙に、我ら一騎当千の精鋭が出城までたどりつくと言う戦法でござる。」
それを聞いて領主、稲場龍興は初めて眉を開いた。
「面白きことを考える奴じゃ。やってみるが良い。」

牛攻め

牛を秋津方に知られぬように出城の近くまで集める、それは思った以上に骨の折れる仕事だった。
牛方の元締めに掛け合って50頭の牛を調達するまでは造作なかった。しかし、そこからぞろぞろと出城近くまで牽いていけば嫌でも目に立つ。
そこで、出城へ登る道から数里以内の農家に数頭ずつに分散して預ける事にした。そして、月の出ない夜に数刻をかけて集め、深更に一気に攻め寄せる手筈とした。
さて、
いよいよ月の登らぬ夜となり、攻め寄せる好機を得た。早速伝令が飛び、予てより示し合わせた手筈通りに兵が動き始めた。
夜陰に紛れて、牛たちが牛方に牽かれ集められた。落ち合った先では、油を染み込ませた松明が用意され、集められ牛の角に結わえられる。そして、闇に紛れ隊列を組んで、出城に向かって隘路を一頭ずつ追い立てられていった。
道を照らす松明を焚けば秋津方に気づかれる。それで、夜目の効くものを先導に立て、牛たちを牽いて漆黒の闇の中を進んだ。
やがて、半刻も歩めば、牛の足でも出城を拝める場所にまで到達する。
逆に言えば、それは出城の物見からこちらの動きを気づかれる距離だった。
その場で、火打ち石を使い、油をたっぷり染み込ませた松明を赤々と点火した。
そして、先頭の牛の角に括りつけた松明に火を放つと、手にした鞭で牛の尻をピシリと打った。
牛は尻の鋭い痛みと同時に、角の上の炎に気を高ぶらせ、出城の方角に一散に駆け出した。
「ようし、続けい。」
掛け声と同時に、次から次と牛たちは二筋の炎の線を引きながら突進して行った。
その数50頭。
甲高く鳴き声を上げながら牛たちは隘路を爆走し、出城へと近づいて行った。
その後に、二宮郷衛門率いる百名ほどの剛の者が続いた。
このまま牛に先導させ、その隙に出城に迫る計略だった。
しかし、
やがて、牛たちが叫喚の声を上げながらも、なぜか進撃を止めてしまったのだ。そして、ひと塊りになって互いの身をぶつけ始めた。その度に角に結わえた松明から火の粉が飛んで闇を赤く染めた。
二宮郷衛門こと、二衛門は一体何が起こったかと訝ったが、だんだんと状況が理解できてきた。
なんと、出城に続く道が崩され、牛の足では超えられぬように塞がれていた。
そして、牛攻めの計はこれで封殺されてしまった。
のみならず、頭上から不意に声が降ってきた。
「これは、稲場衆、かように多くの牛を馳走して貰えるとは相済まぬ。あとは我が方で引き取るゆえ、早々に戻られよ。」
ハッと二衛門が目を上げると、牛の角の炎に照らし出されて、道に崩れ落ちた土くれの上に何人もの人影が見受けられた。
手には鉄砲や弓矢を手にしている。
彼ら秋津方は、ぎりりと弓を引きしぼり、また鉄砲の火縄を点火して、眼下の稲場方に狙いをつけるや、いきなり撃ちかけた。
頭上から矢や鉄砲を降らされ、ついに二衛門を始めとする稲場屈指の剛のものも、牛たちを置いて這々の体で逃げ帰らざるをえなかった。

(其の肆に続く)