今日学んだこと

生きることは学ぶこと。オレの雑食日記帳。

ITインキュベーター

(写真:天女)

ベンダーに厳しい時代

私たちは、自分を「ITベンダー」と称しています。
ベンダーは「売り手」「販売業者」を意味するので、ITベンダーとは、コンピューターと周辺機器、ソフトウェアやそれにまつわるサービスを提供する立場を言います。
私は、約30年前、まだITと言う言葉すらなかった時代に、このコンピューター業界にご縁がありました。
当時は普通のパソコンが80万もする時代、事務所には1台、ないし2台あれば良い方で、言わばパソコンの黎明期でした。
それから、価格の低下にともない、複数持ちの時代、そしてパソコン同士をつなぐネットワークの時代までわずか数年でした。
やがて、そのネットワークが事務所間をつないで、どこの拠点で入力したデータでも、瞬時に本社に集計できるようになりました。
ただそのために、専用線を引いたり、高い通信料を払ってモデムでつないだりと、最初は結構なコストがかかりました。
それが、インターネットの登場により、いつでもどこでも手軽に常時接続できるようになり、ITが、I(情報)C(コミュニケーション)T(技術)と言う概念で語られるようになったのです。
今やITはモバイルの時代、マルチデバイスの時代。そして、どこにも普通にあるユビキタスな時代です。
それだけ、ITが身近になった反面、誰でも彼でも簡単に手に入るようになり、わざわざ専門業者に頼む必要がなくなりました。
そうして、今までITの提供を生業にしていた私たちITベンダーは急激に仕事を失いつつあるのです。

なくなる役割

私は、よくこんな話をします。
「私は、ITの黎明期に就職し、ビジネスとして成立しなくなる直前に現場を去る、言わば美味しいとこ取りの世代なんです。」
では、ITベンダーの役割がなくなるとはどう言うことでしょうか。
今、ITベンダーの仕事にはどのようなものがあるか考えてみたいと思います。
まず、思いつくのは、パソコンやプリンタの手配、あとサーバー機の手配やネットワーク・回線の引き回し。ソフトウェアの選定や改修、そしてお客さん向けにスクラッチ開発と言ったところでしょうか。
そうそう、導入指導に、運用保守もありますね。
さて、今後これらのITベンダーの仕事はどう変化していくでしょうか。
パソコンやプリンタの手配については、業者を通さずに直接量販店やネットショップで買う事業者さんが増えています。別に設定は、業者に頼まなくても自分で十分できますし、プリンタだってコピー・ファックスが一体の複合機を導入すれば事足ります。
それでも、サーバーやネットワーク、回線は専門でなければ難しいだろうと考えがちですが、今はいろいろなクラウドサービスがあり、インターネット回線からWindowsサーバー同等の機能を申し込んで簡単に利用を開始できます。もちろん、インターネット経由なので、どこの事務所からでもつなぐことが可能です。

新しい役割

従来、このネットワークの設定は難易度が高く、専門業者にとってのドル箱でした。
しかし、今その機能をインターネットとクラウドが取り込もうとしています。料金の問題等で、まだ全てがクラウドに移行している訳ではありませんが、いずれ、例えば5年後には普通に見慣れた環境になるでしょう。
それでも、ソフトウェア開発は残るのではないでしょうか。しかし、これも基本的な機能を満たしたソフトウェアがクラウド上に用意されるようになります。
例を挙げれば、スマホアプリが分かりやすいでしょう。アプリストア上に、物凄い数のアプリがアップロードされており、欲しいものを検索してダウンロードします。そうすると、少なくともスマホで利用したい用途は満たされてしまいます。
そして、同じようなことが、今後ビジネス用途のパソコンでも起きると想定されます。
そうすると、どこにITベンダーの役割が残されているでしょう。
つまり、ITに関わる私たちの従来の役割は急速に縮小していくのです。
とは言え、ITが要らなくなる訳ではありません。むしろ、より私たちと密接になり、役割も重要になります。
そして、ITベンダーにも新たな役割が求められるようになるのです。

ITのインキュベーター

それは、Iインキュベーターと言う仕事です。
インターネットの普及により、ITがより簡単に、かつ身近になった結果、IT導入の主導権は情報部門から実業を担う事業部門に移りつつあります。
今までのITは事業を行なった結果をどう記録し、集約して見やすくするかが仕事でした。
しかし、これからはITを使って、事業そのものをどう変えるかが主題です。
例えば、インターネットで印刷会社と顧客を結べば、一人の印刷工を雇わず、一台の印刷機も持たない会社が日本最大の印刷工場になることだってできます。
タクシーを一台も保有せずに、世界最大のタクシー会社に上りつめた例もあります。
この場合、ITが実現しているのは、事業の補助ではなく、事業そのものの創出です。
インキュベーターとは、生まれたばかりの幼児を育てる保育器を言います。そこから転じて、新規事業を経営アドバイスや資金の調達で支援する仕事を指します。
それをITを利用して行うのがITインキュベーターです。
これは、すでに一部大手ITベンダーで始まっている流れです。
それはITベンダーが実業をしている事業者と協業し、事業者のビジネスアイディアをベンダーのIT知識で実現します。
まさに、餅は餅屋、事業者は自分たちの業務知識を、ITベンダーは自分たちの技術を組み合わせて、全く新しい事業を創出します。
当初、ITベンダーはそこに金額的対価を求めません。そして、事業が育った時に、共同経営権を取得するのです。
今、このような新しい役割が生まれつつあります。
「もうIT業界は先がないから消え去るのみ」と言うのでなく、事業者さんと一緒にワクワクするビジネスが作れるとしたら、全く新しいステージが拓けてきます。
まだまだ勉強しがいがあるIT業界だと思います。