今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

Aの質はQの質に比例する

(写真:満開 さくら、薄紅と紅 その2)

妻への質問

これは、あくまでフィクションです。
・・・
夫婦も長くなると、お互い空気のような存在になると言う。
つまり、いることがお互い当たり前になり、言葉を交わさなくても全て以心伝心で伝わるようになるそうだ。
確かに、言葉を交わすことは減りはした。
だが、その分が以心伝心的に伝わっているわけでもない。
同じ屋根の下に暮らしていても、お互いの心が見えないことはある。
特に、私たち夫婦は夜の交渉が絶えて久しい。
別に妻を女性として見られなくなったとか、惓んでしまったとか言うわけでない。
ただ、お互いなんとなくその行為から遠ざかってしまったのだ。
しかし、妻は、私のことをどう思い、まだ私に男性としての魅力を感じているのだろうか、見えない気持ちが気にかかる。
そして、夫婦の行為にどんな想いを抱いているのだろうか。
いつか、きちんと聞いて確かめてみよう。

差し障りのないQ

妻は、夫の私から見ても女として魅力的だと思う。男の情欲も、ときどきふっとくすぐられる。
不思議なもので、私が妻に抱いているのは愛よりも、むしろ恋かも知れない。
だが、男としての想いを遂げるには、少しお互いの気持ちが遠くなっている。
結婚した当時のように、お互い求め合うのが当たり前の間柄でもない。
それに、私には仕事が、妻には子供が、お互い目の前の大切なものがある。
それぞれが、目の前のものに気持ちを逃して、お互いがきちんと向き合えていないのだろう。
そして、互いに何を考えているのかが見えない不安にふっとかられる。
妻は、私の手の届かない遠くに視線が向いているのかも知れない。
私の存在など妻の世界ではどんどん小さくなってはいないだろうか。
そんな気持ちを抱えていたある休日、子供も皆出かけて、家で妻と二人きりになった。
そこで、私から差し障りのない質問を投げかけてみた。
「子供たちは何時まで出かけるのかな。」

少し突っ込んだQ

机に座って書き物をしていた妻は、顔を上げて私に目を向けた。
彼女は、子供の前では余り見せない柔らかな女の顔をしていた。
「そうね、だいたい夕方までには帰ると言っていたから、5時か6時かしら。」
「そう、今日はゆっくりしていられるのかい。」
「うん、ちょっとね。でも、学校の役で、親御さんたちに行事を案内する原稿を頼まれたから、今日はそれで時間がかかりそうよ。」
私は、少しづつ掴みかけた会話の糸口をたぐるように話を継いだ。
「僕も今日少し時間があるから、良ければ手伝おうか。」
「ほんと?頼めれば助かるわ。そうしたら、溜まった洗濯物を片付けられるもの。」
パッと顔を輝かせて、いきなり席を立ちかけた妻を、僕は引き止めるようにこう言った。
「まあ、急がないで。せっかくだから、少しゆっくり話をしない?」
そう踏み込んだわたしの提案を妻は聞いてか聞かずか、そのまま席を立って隣の部屋からノートパソコンを運んできた。
そして、
「あなた、パソコンで資料を作ることなんか会社で慣れているでしょ。簡単に説明するから、すぐに打ち込んで」と私に席を勧めた。
それで、文章作成ソフトを立ち上げた私は、妻の説明を聞きながら「〇〇小学校 父兄の皆様へ」と案内の文章を書き始めた。
手を動かしながら、妻に少しづついろんな質問を投げかけていった。
最近の出来事や、子供のこと、体調のことなど。
そして、唐突にこう聞いてみた。
「何か僕に不満はないかい?」

本質を聞き出すQ

そりゃ、夫に不満のない妻はこの世にいやしないとばかりの表情を作り、妻は答えを返した。
「そりゃ、言い出したらキリがないわ。でも、一つ挙げるなら、前から何を考えているか、よく分からないところかな。」
へえ、妻もそう感じているのか。
近すぎて、かえって見えなくなるものもある。
そして、お互いに役割のようなものが決まって、それを踏み越えて言いたいことを言ったり、甘えたりができなくなった。
少し手が届きづらくなったから、愛でなく、恋かも知れない。
「じゃあ、僕って君から見て、男としてどうだろう。」
今更何を、と思っているだろう。
男として見てもらうには、あまりに近くでだらし無いところを見せ過ぎている。
しかし、妻の方は家でも決して女性としての自分を崩さない。
偉いと思う。
「それって、セクシーかってこと?」
正直、そこまであからさまに聞かれると恥ずかしい。
それでも、せっかく開きかけたゲートだから、このまま閉じるのは勿体ない。
「そう、つまり、その・・・今でも、僕らは求め会えるのかな、っていうか。夫婦なのかな?」
「つまり、まぐわい?」
江戸言葉で言えば、いやらしくならないと思っているのか、でもストレートに返されれば僕も肩の力が抜ける。
「そう、やっばり、もう子供があるとか、ないとか関係なく、夫婦の大切なコミュニケーションだと思うんだけど。」
「ま、やっばり男の人っていやらしい。」
そりゃ、映画のようにいきなり口を吸っていい仲になるなら苦労しない。
夫婦はお互いの体を許し合うことを法律で保証された関係だけど、だからって何でも気持ちに任せてできやしない。
むしろ、無垢な恋人同士の方が、これからの関係構築のためにストレートに求め合える。
しかし、妻は、少し意地悪くニッと笑って答えた。
「そうね、あなたの方から言いにくいことを言ってくれたんですもの。
こういうことは、女にとっては、気分の問題なの。
回りくどい言い方をされたら、どうか分からなかったけど、あなたが素直に言ってくれたから、私も素直になるわ。
やりましょうよ、もう一度夫婦を。」
そこで、話の主導権を全部妻がとっていることに気がついた。
恥ずかしいけど、一番の本音聞き出すには、こちらも本音でなけりゃいけない。
そして、うまくそこまで誘導されたのは僕の方かも知れない。