今日学んだこと

生きることは学ぶこと。オレの雑食日記帳。

バカになあれ

(写真:田園の赤電車 その3)

■耳触りの良い言葉

以前、日経の「私の履歴書」に登場された社長。
今まで日本に無かった革新的な製品を発表したところ、たいへんな反響があったそうです。
マスコミはこぞって持ち上げ、それに呼応するように消費も伸びていきました。
しかし、それが慢心のもとだったと、その社長は反省をされています。
つまり、その革新的な製品が、あまりに優れていたため、営業も、また開発も、あとは放っておけば勝手に売れるように思いこんでしまったのです。
しばらくは、売上を維持できました。
しかし、やがて翳り見え始めます。
それは、ライバルも必死ですから、その製品を研究して、さらに上まるものを開発してきたのです。
そして、トップメーカーほどそれに敏感にならねばならないところ、それまでの成功に酔いしれ、努力を怠り、内弁慶にとどまってしまいました。それが市場での自社製品の優位性をじわじわと削り、大幅な売上減にまで至ったのです。

■バカになあれ

そこで、初めて会社の皆んなは気がつきました。
マスコミや流通からの耳触りの良い言葉に酔って、自分たちの立ち位置が完全に見えていなかったことに。
それからは、もちろん他社研究もし、消費者の声にも向きあって商品開発をしました。そして、その結果なんとか売上を回復することができたと言います。
やがて、周りにまた耳触りの良い言葉を言う人たちが増えてきましたが、そこで社長はこう戒めています。
「持ち上げたり、良いことを言ってくれる人たちには警戒しなければならない。あれは『バカになあれ、バカになあれ』と言っているのだ」
山谷を経験して来られた方ならではの深い言葉です。
確かに、私たちは良いことを言ってくれる人のところに行きたくなります。反対に、正しいことを言っていても、ズバリと厳しいことを言う人は敬遠したい。
意見を聞くのは、自分の間違っていることを指摘して貰い、放っておけばそのまま行くところまで行ってしまうのを防ぐためです。しかし、忠実にその任務を果たしている人を遠ざけ、むしろ無関心でその場を取り繕うために耳触りの良いことを言う人を求めます。
まさに「バカになあれ」と言う言葉が聞きたいのです。

■注意すべき人たち

『安酒を気前よく振る舞い、騒ぎを煽るタイプの政治家や論客に対して、注意深くならなくてはならない。』
これは、村上春樹氏の言葉を引用しました。
非常に意味深な言葉です。
どんな意味でしょう。
少なくとも、私には安酒と言えども、気安く振舞ってもらえる政治家や論客の知り合いはいません。そして、もちろん殆どの人もそうでしょう。
しかし、ここで言う安酒とは、政治家であれば、国民を納得させるための場当たり的な施策を指すのだと思います。たとえば、消費税10パーセントで噴き出す不満を抑えようと導入を検討している軽減税率。しかし、その財源をどうするか。
ならば、9パーセントにして貰った方が有難いのに、そこは議論しないようです。
結局10パーセントを維持し、後は軽減税率の財源確保の為にあちらを削ったり、こちらを削ったり。果ては、待機児童対策の予算にまで手をつけて、怒り出したお母さんたちで国会前は騒然となっています。
騒ぎを煽るとは、その本質を見極めずに、世の中の関心の向いたところに施策を打つ。
日本の添加剤の規制の緩さには定評がありますが、時に消費者団体の発表に国民が過剰反応することがあります。すると、その添加剤は、全く問題にならないくらいの分量でも規制でNG。一応、みんな納得しますが、それが目くらましになって本当によくないものが野放しになっている感は否めません。
いかに行政に国民感情は大切とは言いながら、我々の感情を逆手にとって本質以外のところで物事が動いている気がします。

■自分との戦い

また、安酒を振る舞う論客とは何でしょうか。最近の傾向として、やたら日本を持ち上げる報道が多いように思います。
もので振る舞わなくても、言葉、あるいは内向きのプロパガンダで意識を高揚しようとしているのでないか。
それは、今は大きな問題になっていなくても、かつて国内テロを起点として、一気に他国への武力行使容認の流れを作った国があったように、容易にプロパガンダと言う安酒に酔わされ、手拍子、足拍子に乗せられて、最後望まぬ方向に連れ出される。
そんな国民性があることを、自分自身自覚していますし、この国には容易に乗せられて悲惨な目にあった過去もあります。
そう言うところから、村上春樹氏は作家の立場で、常にあるこの危機を警告しているのでしょう。
褒めやおだてに乗りやすいのも、自惚れが強いのも人間の本質です。そして、そんな言葉を探してでも聞きたい。
もちろん、そんな言葉は我々を励まし、勇気を与えてもくれますが、そこはキチンと聞き分けないと「バカになあれ」の囁きの可能性もあるのです。
心したいと思います。