今日学んだこと

生きることは学ぶこと。オレの雑食日記帳。

稼ぐことより、稼ぎ続けること

(写真:黄金のはぐれ雲)

■安売り王

以前読んだ企業小説の主人公は、今のヤマダ電機や、ビッグカメラのような量販店を展開する社長でした。
まだ、量販店が台頭する前、そしてダイエーのような大手スーパーが力をつけ始めたころに書かれた小説です。
あの頃は、まだメーカーの力が強くて、価格決定権を持っている時代でした。今なら、「独占禁止法違反だ」と言われるかも知れませんが、それくらい流通に対して、メーカーが圧力をかけることができたのです。
その中、「この価格の決定の仕方はおかしい、消費者が望む価格で提供して然るべきではないか。」そう考えて、主人公の社長は、当時の業界の体質に反旗を翻しました。
つまり、自分の展開する店舗で、メーカーの希望小売価格を無視して、どんどん安売りを始めたのです。
最初は大量に仕入れてくれるその店をメーカーも卸しも上得意先と扱っていました。しかし、店頭で今までの常識を崩したような低価格で販売を行い、それが他の流通業者にも影響が出始めると、だんだん周りの風当たりが強くなってきました。

■電機メーカーからの仕入を断わったわけ

今までメーカーも流通も持ちつ持たれつで、利益が出る構造を維持していたのに、一店だけ、その慣例を壊しにかかるのです。
この店に、消費者が熱狂して流れ込んでいるのも恐怖でした。
このままでは、今日で言うところの価格破壊になり、業界全体の利益構造が崩される。
そう危惧したメーカーや、卸しは再三に渡り圧力をかけてきました。「このままでは、おたくと一切取引できなくなる」と。
しかし、その恫喝や苦境にも一切屈せず、その社長はいろいろな仕入ルートを開拓し、最後は今日で言うプライベートブランドまで開発して対抗します。
方や、この社長には長年来の友人がいました。この友人は電機メーカーの人間だったので、何度もこの社長のやり方を諌め、最後は敵に回って締め付けます。
そして、物語の終盤では、この安売り王の社長は世の中に支持されて市場に確固たる地位を築きます。一方友人の勤める電機メーカーは、商品戦略の失敗で大量に在庫を抱えたのです。
窮した友人は、安売り王の社長に、破格の値段で卸すから店で販売して欲しいと持ちかけます。
確かに、安く仕入れられたら、そのまま安く販売もでき、店としても良い消費者サービスになるでしょう。
しかし、社長の答えはノーでした。確かに、今は安く商品を提供できるかも知れないが、やがて在庫が底をついたら、また元の値段に戻さなくてはならない。それでは、消費者の期待を裏切ると言うのです。
その言葉に、友人は肩を落として退散していきました。

■瞬間最大風速より、安定的な風量

消費者とは恐ろしいものです。
一度、安い価格が頭に刻まれると、毛頭それを書き換えようとはしません。
たとえば、大手ハンバーガーチェーンの低価格メニュー。販売当初は、いろんな層の消費者を取り込んで、売り上げが一気に急進しました。そして、そろそろ顧客が取り込めたと、頃合いを見て価格を元に戻したところ、低価格に慣れた顧客たちは掌を返したようにハンバーガーチェーンを離れていきました。
その間、低価格で提供するために、徹底的にコストカットを行い、スタッフも人件費の安いアルバイターに替え、材料の質も落としました。
その段階で、このハンバーガーチェーンは、質は悪いが値段は安い店と消費者から記憶されたのです。そこに来て、値段をもとに戻したら、消費者にとって、その店を利用する理由がなくなります。
これで思うのは、瞬間的に最大限に支持されるより、少しずつでも長く安定的にお付き合いして貰える方が、企業にとっても顧客にとっても、ずっと良いと言うことです。

■信用をつなぐ

信用を築くには長い年月がかかりますが、信用を失うのは一瞬だと言われます。
信用は、ずっと同じ品質でサービスを提供することにより、顧客に安心感を持って貰って築けます。
うちの近くにうなぎ屋さんがありました。うなぎの長焼きで有名な店で、美味しいと評判でした。
それが、代が替わるとガタッと味か落ちてしまったのです。それで、それまで贔屓にして、かなりの頻度で通っていたうちの親も、パタッと足が遠のいてしまいました。
私たち消費者は、業者に対して一定の評価を持ちます。信用とは、その良い評価のイメージを私たちの頭に植え付けることだと言えます。
反対に、一度作ったイメージと違うことをする、つまり評価を裏切ると大きく落胆させられます。
だから、一時的に良い顔を見せても、それが続かなければ却って深い傷になります。
一時収益を上げるより、収益を上げ続けること。それが将来に渡って、安定したサービスを提供するもとになります。
良いサービスほど、継続的に提供できるかの吟味が必要なのですね。