今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

子供に残すもの

(写真:バルーンフェスタ その3)

■本間様には及びもせぬが、せめてなりたや殿様に

酒田本間家、一時は1750ヘクタールを所有し、日本一の大地主といわれた旧家です。
その財力をして、
「本間様には及びもせぬが、せめてなりたや殿様に」と狂歌にまでうわたれていました。
江戸、明治期と通じて、その資産は受け継がれましたが、明治維新で他の旧家が財閥化を図ったのに対して、本間家はあまり興業には熱心でなく一地方企業家にとどまり続けました。それでも、防風林や灌漑事業を通じて、酒田の地域発展に尽くしたと伝えられています。
やがて敗戦を迎え、GHQの農地解放政策により、1750ヘクタールあった土地は、僅か4ヘクタールにまで減らされました。
そして、本間家の商事部門を手がけた本間物産も平成2年に倒産しました。しかし、その後再建されて、現在は秋田県の伏見屋ホールディングスの子会社となっています。

■資産家の消滅

戦前までの地主に、この農地解放が与えた影響はほとんど壊滅的と言って良いでしょう。
なにしろ、山形県全体の面積は9300ヘクタール、うち酒田市は603ヘクタール、対して、本間家の所有は1750ヘクタールだったので、以前の所有面積が如何に広大だったかが分かります。それが、一晩でたった4ヘクタールになるのですから。
日本一と言われていた大地主が、地方の一資産家に落ちるのです。一族の動揺はどんなに激しかったか想像もできません。まさに、雲の上から見下ろしていた下界へ、足を踏み外して墜落するような感覚だったかも知れません。
しかし、農地解放からしばらく経った今も、資産家は存続しづらい環境のようです。
それは、相続のためです。
昔は、家督相続が基本で、相続税についてもあまり高い税金を払うことはありませんでした。相続税は、明治38年に日露戦争の戦費調達のために創設されました。その際に、課税は、家督相続と財産相続に分けられ、家督相続の税率は低く設定されていたのです。
つまり、一子に対して、財産がそのまま継承されやすい制度だったわけです。
しかし敗戦後、昭和24年のシャウプ勧告により、家督相続は廃止され、財産相続のみとなりました。また、財閥等に富が集中しないように贈与税、相続税の最高税率が高く設定されました。

■富の分散

家督相続の廃止により、法定相続人での分割と、それぞれの相続分に対する課税が行われるようになりました。
法定相続人とは、配偶者が遺産の2分1、あと残りを子供たちが人数で均等に割って相続すると言うものです。
家督相続の時代は、長子が家の財産の全てを引き継ぐことが当たり前でした。しかし、昨今は、遺産相続はとかく揉め事に発展します。
親としては、どの子も可愛いのですが、やはり近くにいて最後まで面倒を見てくれた子供に多く報いたいもの。それで遺言状に、どの子には、何をいくらと生前に決めておきます。
ただ、それが突然死で遺言状の準備ができなかった時は、法律に従って遺産の相続をすることになります。しかし、そこは子供同士の思惑で、自分が最後まで親の面倒を見たのだから、その分多く貰いたいとか、そこは法律通りにして欲しいとか、とかく喧嘩の元になるようです。
ましてや、相続額が膨大な資産家の場合、いくら相続するかは深刻で、昔のように長子が全てを相続して丸く収まると言う訳にはいかないでしょう。
かくして代を経るたびに、資産家の財産も子々孫々に細切れに分割され、やがて市場に吸収されていきます。

■子孫に残すもの

さらに、法定相続された遺産には、相続税がかかります。以下、平成27年改正の相続税率で計算してみます。
遺産総額1億4千800万、配偶者が1人、子供が2人で計算します。
すると、控除額が基礎控除3千万+法定相続人×600万なので、1億4千800万−(3千万+600万×3人)=1億円が実質の課税対象額となります。
うち配偶者に対する法定相続分が5千万、税率が20パーセント、配偶者控除分が200万なので、5千万×20パーセント−200万で、奥さんの相続税は800万円となります。
同じように、子供1人の法定相続分は2千500万、税率が15パーセント、うち控除分は50万なので、2千500万×15パーセント−50万で子供の相続税は325万円です。
合計すると、貯金、株券、家、宅地合わせて1億4千800万の資産を持っている人の相続税は、1千450万です。
これだけ見れば約1割ですが、住居のように生活に使っているもの以外で、1千450万も現金で納めるのはとてもたいへんなことです。ですから、終活と言っても、そのうち遺族の相続対策に力が入るのは当然ですね。
ただ、これが控除後の課税対象額が6億円を超えると、相続税率はなんと55パーセントになります。金額が大きくても控除額は変わりませんから、一代変わるだけで資産の半分以上を失うことになります。
つまり、どんな資産家でも、今の日本では財産は数代で散逸してしまうことになります。
いずれ、この日本では資産は国有か、企業の所有だけになるかも知れません。そうしたら、収入の多い少ないはあっても基本横並びの社会になるでしょう。あるいは、知恵のある人があの手この手で節税対策をして、資産を囲い込むとか。
そうすると、次世代に無理して財産を残す必要がなくなります。また、資産形成のレコードを伸ばすことも虚しくなるでしょう。
いっそ、自分一代が面白おかしく暮らせる分があれば、後は好きなことをしょう、と考え方が変わるかも。
そして、可愛い子孫に残す遺産の価値基準も変わる可能性だってあります。それは、自分同様に人生を充実して過ごせる心構えとか、人生に対する姿勢かも知れません。
また、自分のような凡庸な人間ならば、やはり人間らしく、また正しく、悔いなく生きる術を教えられたら充分なのでしょうね。