今日学んだこと

生きることは学ぶこと。オレの雑食日記帳。

他人鏡

(写真:開かずの踏み切り)

■知るとのみ

「知るとのみ思いながらも なによりも
知られぬものは 己れなりけり」
自分のことは自分が一番分かっている、そう言いますが、実は一番分かっていないのが自分自身であると教えた歌です。
よく経験することですが、人のことならいくらでもアドバイスできるクセに、自分のことになると急に分からなくなる。信じられないくらい基本的なことを指摘されて、赤面すること、一度や二度ではありません。
「なぜ、自分のことは、こんなに見えないのか?」
そう愕然としますが、それは人間の目が外のものを見るためについているからです。
だから、外はよく見えても、自分自身が完全に死角になっています。

■外面を写す鏡

自分の目で見えないもの、例えば自分の顔とか、鼻とか眉毛とかを見ようと思った時、私たちは鏡を用います。
鏡に映せば、見えなかった自分の顔や服装がよく分かります。
あ、口紅ずれているとか、男性ならひげが伸びているとか。甚だしいのは、毎日チェックを怠ってるものだから、鼻から長いのを垂らしている人もいます。(鏡を見ろ!って言いたくなりますよね。)
そのように外出前に、自分の姿を鏡に映して見ることは欠かせない習慣です。「見た目が10割」なんて本を書いた人もいますし、やはり外見は大切だからでしょうね。
人間はまず外見から入ります。誠実そうな人だなとか、優しそうな人だなとか、怖そうだなとか。
だから、皆んな少しでも印象を良くしたいと思い、毎朝の鏡の前のケアに余念がないのでしょう。

■内面を写す鏡

しかし、人間にとって、もっと大切なのは外面よりも内面です。
内面とは、親しく付き合って初めて分かる、性格や人間性のことです。
また、自分と言う人間が善人か悪人かと言うことでもあります。
人間が如何に内面を大切にしているか、一つ例を挙げます。
「君、服の襟が曲がっているよ」と外面を指摘された時は、「有難うございます」と素直に直せますが、「君、根性曲がっとるなあ」と内面をグサリと言われたらどうでしょうか。「馬鹿言うな」と相手のことを長い間許せないでしょう。
それくらい大切な自分の内面の姿ですが、それは何で知ったら良いでしょうか。もちろん、市販の鏡に映して見ることはできません。
しかし、我々がしきりと気にして、いつもチラチラと眺めている鏡があります。
それは、人の自分に対する評価です。これを「他人鏡」と言います。
つまり、人が自分をどう評価しているかを手掛かりに自分の姿、特に内面を知ろうとするのです。
人から「やさしい、たのもしい、良い人だ」と言われれば、もの凄く嬉しくなりませんか。反対に「不真面目だ、信用ならん、悪人だ」と決めつけられたらご飯が喉を通らなくなります。
それくらい、私たちにとって自分の内面は大切であり、この他人鏡に重きを置いていると言うことなのです。

■実態は、人間の都合

ただ、鏡なら何でも正しく私たちの本当の姿を映すかと言えば、安い鏡の中には顔が歪んで映るものがあります。
では、この他人鏡の精度はどうでしょうか。
そもそもこの話は人間の善悪の決め方についての話なのです。
例えば、相手が同じ人間でも、置かれているシチュエーションによって善悪の評価はガラリと変わります。
気持ち良く道を走っていたら、急に警察官に道を塞がれました。そして、「10km速度違反ですよ」と切符を切られました。
速度制限40km/hのところ、空いていたらついつい50kmは出しますよね。切符を切られている間も、他の車は時速50や60でビュンビュン走り去っていきます。なんで、自分ばかりが!不公平だ!そんな気持ちになり、目の前の警官が憎たらしくなります。
だからでしょうか、あまり警察官を良く言う人は居ません。
しかし、ある時、街で不良のグループに絡まれた。身ぐるみはがされて、何発も殴られるかと覚悟していたら、「おい、お前たち何をしている!」と助けに来てくれた人がいます。見ると、あの切符を切った憎らしい警官。ところが、今度は地獄で仏様に会ったような気持ちになるではないですか。
憎らしい奴か、仏様か、警官は自分の仕事を忠実にこなしているだけなのに、受け取る私たちの都合によって評価はコロコロ変わります。
世の中、全てこの習いでしょう。
事実、我が国の首相も経済対策を勇ましく歌っていたころは国民全体で持ち上げましたが、消費税を導入したころから、いろいろと言われるようになりました。
自分の都合の良い時は善人で良い顔を向けられ、都合が悪くなれば悪人とばかりにソッポを向かれる。結局、自分の都合中心、自分も他人もです。
他人鏡は、自己を正す大切な鏡には違いありませんが、そのように自分の姿を歪んで映すことがありますから、無条件に他人の評価を受け入れてしまうと疲れてしまいます。
人の評価も大切にしつつ、それだけに流されないように自分をしっかり持っておくのが大切ですね。