今日学んだこと

生きることは学ぶこと。オレの雑食日記帳。

チーム作り

(写真:青空改築中)

■セル・マイスター

以前、ある会社にセル・マイスターと言う制度があると聞いたことがある。
製造業で、製品の組み立て工程を全部一人でこなす人だと言う。
普通、製造業と言えば、ベルトコンベアの上を流れてくる製品を、工程単位の分業で組み立てるイメージが強い。しかし、大量ロット大量生産は利幅が薄く、発注元の景気に左右されやすい。そこから利幅の稼げる小ロット少量生産へ転換を図る会社が現れた。その過程で採用されたのがセル工法である。
一つの作業台に部品を全て集約し、最初から最後まで全て一人で組み上げる。
確かに、これなら大掛かりな設備は不要である。しかし、セル工法を担当する人には、全て自分でこなすスキルが求められるから、職能によるランク付け、すなわちマイスター制度が採用されている。

■早く行きたければ一人で行け

アフリカの諺に、
「早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければ皆んなで行け」と言われる。
すぐに移動して何かを確保しなければならないとか、情報を確認しなければならないとか、そんな場合は一人か二人の斥候が立てられる。大人数を動かしていると、準備に手間取り、大切な機を逸するからである。
その意味でセル工法とは、まさに「早く行きたければ一人で行け」そのものであろう。
自分の経験の中でも、一千万位の仕事ならば、一人で受注、設計、製作、導入、教育までこなすのが、一番効率が良かった。
まず早く動けるし、小回りが効く。ある程度の修正も可能だから、だいたいの押えで次の工程へと進めた。
実は、結構手戻りもしているのだが、それ自体も細かく動くので、目に見えたコスト増として表面化しないのだ。

■遠くへ行きたければ皆んなで行け

だが、いざ何十日もかけて旅をする場合には、食料や水、夜具や薬品等の物資を持参しなければならないから、大部隊を編成することになる。同じように大規模のプロジェクトになると、当然一人での対応は無理である。
製造業ならば、大量ロットを長期間、かつ効率良く製造し続ける仕組みがいる。多くの人を投入して、しかも効果的に動かさねばならない。だから、そこには組織と設備の投入が必要になる。
自分の仕事でも、規模が大きくなって来ると、調査、設計から複数人数が関わる。規模に比例して、お互いが情報を伝達し合う必要が発生する分、効率は下がって行く。
しかし、次の製作段階で投入する人数が多い分、手戻りは許されないし、作業の均一化も必要である。その為工程毎の確認もより厳密にならざるを得ないし、事前の準備もしっかりしなければならない。
だから、どうしても、規模に比例して手間が膨らみ、それに伴い利幅が削られて行く。また規模が大きい場合、ドンブリ勘定の要素も入るから、正確な見積もりを疎かにして赤字プロジェクトに転落するかも知れない。
しかし、遠くまで行くためには、たくさんの物資を担いでいく必要があるように、規模の大きな仕事をする時は、それなりにコストをかけて準備し、大部隊で取り組むのは仕方がない。

■俺は一人で生きられない自信がある

自分は根っからのセル工法の人間だと思う。
だから、ついつい大規模の場合にも、セル工法の理屈を当てはめて考えがちである。
セル工法なら、すぐに結果が出せるのに、どうしてそこまで仕込みを行う必要があるのか。モックを作って、すぐに動かせば良いのではないのか。
だが、大きくて、期間の長いものは、最初の歪みが後になるほど影響する。東京タワーも、途中階の数ミリの計算ミスが、後で大きな狂いを引き起こしたと言う。
そのため、途中で何重にも精度を確認する仕組みが必要だが、そんな膨大な作業、どうしたら良いのか?全部自分でこなしていた身からすると、頭を抱えてしまう。目の前に積み上がった大量の作業に押しつぶされそうになる。
そんな時は、やはり音を上げてしまうのが一番だと思う。
セル工法は、全部自分が分かって、一人でするのが身上。
大部隊を動かす目処が立たない時は、一人部隊の斥候がまず俊敏に動く。
しかし、大きな部隊を動かす時は、全て分かろうとか、実行しようと思ったら、むしろ混乱を招く。

「俺は一人で生きられない自信がある」
ワンピース、ルフィの名言である。
素直に、自分ができないことをできないと認めている。そして、自分に足らないものをクルーたちで補っている。
ルフィ自身は船長だし、腕っぷしは一番だが、それだけで海賊船は走らない。
ルフィが仲間を大切にするのは、自分の足らないものを補ってくれる大切なチームだからだ。
時に、セル工法は大切だ。
しかし、規模が大きくなったら、考えを変えなくてはならない。できる自分に固執せず、できないことを素直に認め、できる仲間に頭を下げて協力を求める。
そんな、度量が必要になる。