今日学んだこと

生きることは学ぶこと。オレの雑食日記帳。

ピクサーピッチ

(写真:夏の川面にて その1)

■ピクサーピッチ

アメリカのピクサースタジオ。
アップルを離れていた頃の、スティーブ・ジョブズが出資していたことでも有名なアニメーション制作会社。

設立者のジョン・ラスターは、ディズニーにいた頃、CGアニメーションの可能性に取り憑かれて、社内でプレゼンするも、なかなか理解が得られずに、ついに袂を分かつことになった。

やがて、ジョブズら出資者らの協力を得て、長い制作期間を経て世に問うたのが、世界初のフルCGアニメーション「トイ・ストーリー」だった。
その評価は、瞬く間に世界中を駆け巡り、ピクサースタジオの名前は我々の知るところとなった。

反対に、ラスターの古巣のディズニースタジオは、旧来のアニメの枠が壊せずに苦しんでいた。
そこに、招聘されたのがラスターだった。
過去の経緯はあったものの、古巣のディズニーで思う存分腕を振るう機会を得た彼は、水を得た魚のようにディズニーアニメーションに新しい命を吹き込んだ。
そして、出来上がったのが、かつてのディズニープリンセスの枠にはまらないヒロインの活躍する『塔の上のラプンツェル』である。

そしてこの成功が、ディズニーのラスターチームによる『アナと雪の女王』の大ヒットへと繋がったのは記憶に新しい。

ラスター率いるピクサースタジオのアニメーションの魅力は、CGの緻密さ以上に、コンピューターグラフィックによって描かれるキャラクターの人間臭さであったり、チャーミングさである。

さらに、見るものを物語に引き込んでゆくストーリーテリングのうまさ。
しかし、ピクサーのストーリーの組み立てに、一定の法則性があることを発見した人がいる。
それを、「ピクサーピッチ」という。

■昔々

ピクサーピッチとは、ダニエル・ピンク氏が著書『人を動かす、新たな三原則』で語っている言葉である。
適当な日本語訳はないが、ピッチは、相手の心をつかむための話法、コピーくらいの意味。
そして、ピクサーピッチとは、ピクサーのストーリーテリングの組み立てが、相手の心をつかむコピーライティングやプレゼンに応用できるということである。

では、ピクサーピッチでいうところの、ストーリーの枠組みとは何であるか。
それは、単純な6つの展開に集約される。

「昔々」
「毎日」
「ある日」
「そうして」
「そうして」
「そしてついに」

これをピクサー作品ではないが、前出の『塔の上のラプンツェル』に当てはめてみるとこうなる。

「昔々」ラプンツェルという女の子が、高い塔の上に住んでいました。

「毎日」自分の誕生日に空に浮かぶたくさんの光を、いつか塔の外に出て、近くで見たいと願っていました。

「ある日」ラプンツェル18歳の誕生日の前に、塔にフリン・ライダーと名乗る若い男がやってきました。

「そうして」ラプンツェルは、フリン・ライダーと交渉の末、外の世界に連れ出して貰うことに成功します。

「そうして」・・

これ以上書くとネタバレになるので控えるが、ピクサーの作品はこのようなストーリーラインに従って、見る人の心を物語に引き込んでゆく。

■自分のピクサー・ピッチ

このストーリーラインは、自分たちが誰かにメッセージを届ける時にも使えるとダニエル・ピンク氏は言う。

例えば、業務系アプリならどうだろう。

「昔々」事務員は、大量の請求業務のために、月末遅くまで残業をしていた。

「毎日」こんな日々にうんざりしながら、仕方ないと諦めていた。

「ある日」事務所にコンピューターが導入され、毎日の取引を入力するように指示された。

「そうすると」毎日台帳に手書きしていた取引がどんどんコンピューターに記録されていった。

「そうすると」月末に台帳から集計しなくても、コンピューターの中に集計されたデータがあることに気がついた。

「そしてついに」ボタンひとつで、月末に請求書が発行されるようになり、請求業務がこの上もなく楽なものになった。

請求業務システムの機能説明をくどくどと行うよりは、お客さんにとっての導入メリットがわかりやすく伝わるので、何倍も関心を引けるだろう。

また、このピクサーピッチは、僕らの未来の指針を決める時にも応用できる。

「昔々」コンピューターソフトの開発会社は、あまりに変化したITの流れについていけず、いつまで今の技術が通用するかと不安を抱えて生きていた。

「毎日」雑誌や新聞に現れては消える新技術の濁流に身を任せ兼ねて、時間ばかりが経っていた。

「ある日」顧客から、今のシステムの一新を依頼され、さらに新しい事業展開の相談に乗って欲しいと頼まれた。

「そうして」不慣れながら、顧客へのヒアリングと検討を重ね、顧客の強みを生かした事業モデルと、それをサポートするシステムの提案を行った。

「そうして」何度か紆余曲折はあったものの、システムは稼働し、顧客は新しい事業展開を始めることができた。

「そしてついに」コンピューター会社は、この経験をもとに、新規事業の展開と、システム構築を請け負う、全く新しいコンピューター会社として多くの会社の支援を行うようになった。

これは粗い一例だが、このピクサーピッチに従ってストーリーラインをいくつか作ってみれば、いつか自分たちにピッタリの未来が描けるかも知れない。