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今日学んだこと

分かっていることは書かない。分かっていないから書いて学ぶ。だから「今日学んだこと」なのです。

ワントゥーワン

(写真:夜の街のシン・ゴジラ)

O2O

「O2O」と言う言葉をよく耳にします。
マーケティングに関する言葉なので、初めて聞く人もいると思います。

あ、それ。
「101」ね。
それは、ディズニー作品『101匹わんちゃん大行進』のリメイクです。

「O2O」は、「オー・ツー・オー」と読みます。
スマートフォンが街に出回り、消費者の購入体験は大きく変わりました。
それを象徴する言葉なのですが、何の略語なのか検索してもハッキリしません。
私は少なくともふた通りの意味を聞きました。
曰く、「オンライン トゥ オフライン」「ワントゥワン」の2つです。

オンライン トゥ オフライン

まず、一つ目の「Online To Offline」について。
「オンライン」とは、「オンラインゲーム」と言われるように、ネットにつながった状態を言います。
私たちは自宅のパソコンや手のひらのスマホでネットとつながります。
最近では、EC(eコマース、つまり電子商取引)と言う言葉をよく聞きますね。
ネットを通じて情報提供を受けたり、商品を購入すれば、私たちは実際にお店に足を運ばなくても済みますし、お店側は接客の人件費を省けます。さらにそれまでは、お店にない古い商品はお取り寄せをしたり、いろいろな店舗を回らなくてはなりませんでした。しかし、ネット店舗の無限に広い商品棚には大抵のものが揃っています。
買う側は購入が楽になり、売る側も販売機会が大幅に増えました。
それで台頭してきたのが、Amazonや楽天などのネットショップの大手です。
それらは、すっかり私たちの日常になくてはならない社会インフラとなっています。
対して、苦境に立たされているのが、実店舗を構える事業者でした。

ワントゥワン

日本の個人商店は、量販店の台頭によりすっかり退場を迫られました。
そして、◯田電気や、◯ックカメラのような大型店は時代の寵児となりました。
しかし、今度はそれら量販店がネット店舗の台頭で苦境に立たされています。
今度は自分たちが時代から淘汰されるのか?
しかし、彼らは必死に時代に抗いました。
「確かに、実店舗はコストも品揃えもネットショップには敵わない。しかし、実店舗には実店舗にしかできない顧客体験があるはずだ。」
そして、今まで競合関係だったネットショップを進んで取り入れ、実店舗との共存の道を探ったのです。
それが、「Online To Offline」です。
「Online」(ネット)から「Offline」(実店舗)へと、顧客の導線を作ろうと言う取り組みを言います。
まず、Amazonや楽天に負けないようなwebコンテンツを用意し、ネットでの集客を図ります。そして、ネットでつながっている顧客には、実店舗でも特別な体験が用意されています。
例えば、スマホを持って街に出れば、実店舗の近くを通りかかっただけでお得なクーポンが送信されます。あるいは、近くを通れば自然にポイントが貯まると言うサービスもあります。
「クーポンを貰ったし、ポイントも貯まったし、そろそろ顔を出してみようか」
そう思って実店舗に足を運ぶ顧客によって、何十パーセントも売上が向上した例もあります。
さらにクーポンを配り、顧客を呼ぶだけでなく、より細かい接客をネットの力で実現しようとしています。
それが、「One To One」です。

私だけの顧客体験

この「One」は、everyoneやanyoneの「One」とも読めますが、やはり「1人」の「One」と読むのが正しいと思います。
「1人」から「1人」へ。
つまり、顧客1人1人へのきめ細かい接客をネットの力で実現しようとします。
きめ細かいと言えば、高級旅館の女将の接客を思い浮かべます。なしにろ、今までの宿泊客のデータや嗜好が頭に入っていて、その人その人に応じて痒いところに手が届くような接客をします。そして、それが非常に気持ち良いので、少々高くてもまた泊まろうと言う気持ちになるのです。
これを機械を使って行なおうとするのが、Amazonでよく使われているレコメンデーションです。過去の購入や閲覧履歴から私たちの嗜好やニーズを推測して、それをもとに商品の提案をします。
しかし、これを機械にされても生身の私たちには何の感動もありませんが、実店舗で初対面の店員さんからそんな接客が受けられたらたちまちファンになるでしょう。
ネットは便利ですが、人と接しないので味気ない。反面、実店舗にはネットのような便利さ、手軽さはありません。
つまり、その2つをうまく組み合わせたのが「O2O」なのではないかと思います。

スイッチが入るまで時間がかかるタイプ

(写真:タワーズ遠景)

なぜ、仕事が遅れるか

「遅い!いつまでかかってんの!」

叱られるのも道理、期日はとっくに過ぎている。
しかし、そもそも仕事が遅いのではなく、仕事に仕掛かるのが遅いのだ。
期日直前に慌てて始めても、大抵時間が残っていない。結局大幅に遅れて、冷や汗でお詫びをしなければならない。
またさらに仕事が押して、時間のやり繰りができなくなって、ますます遅れる悪循環。
それでも、仕事には山谷あって、やれやれと一息つく時が来る。それで今度こそは早めに手をつけようと思うものの、やっぱりダラダラしているうちに時間を失う。学習能力ゼロなのか?自分が恨めしい。

スイッチが入るまで時間がかかるタイプ

しかし、そんな自分のどこに問題があるのか?
早くやれば良いのは分かり切っているし、遅れちゃいけないのも承知している。
でも、やっぱりいつもギリギリ。
待ち合わせもそう。
いつまで経っても、「あと10分遅れます」が治らない。
一度遅れて申し訳ない思いをしたのなら、今度はちゃんとそれを見越して早く動けば良いのに、気がつくといつも出かける直前にバタバタを始める。そして、毎度同じ時間無いゾーンに落ち込んでしまう。
これはひとえに、ギリギリにならないとスイッチが入らないから。
スイッチさえ入れば、人一倍早く動く自信はある。いやむしろ、ギリギリを繰り返して、瞬発力を養っているとしたら恥ずかしい話である。

スイッチを早く入れるコツ

じゃあ、早くスイッチを入れたらいいじゃん。
そう、それくらいの理屈は自分にも分かる。
しかし、それができれば、夏休みの宿題が終わらず親に迷惑をかけることも、学力不足で志望校に手が届かないことも、納期直前に徹夜をすることもなかっただろうに。
ならば、何とか早くスイッチを入れるコツはないだろうか。
そんな自分でも絶対時間に遅れないことはある。
例えば、凄く気の張る人との待ち合わせとか。凄く怖い先輩を待たせたら、うわあ、である。
そんな時は、前の日から緊張して、不慮の事態で遅れるリスクも想定する。動き出しも間違いなくいつもより30分は早い。
つまり、意識の問題。
いかに、気持ちを早くそこに向けるか。あるいは、たいへんなことを本当にたいへんなことだと自覚をするか。

作業のトランス

それには、まずは始めてみることである。
実際に始めてみなければ、想像だけでは分からないことが多い。
昔、先輩から試験に受かる人と受からない人の見分け方を聞いた。
試験直前に、「まあ、大丈夫ですよ」と粗い返事をする人は、実際に自信満々の人か、殆どは試験に対するリアルな実感のない人。こんな人は厳しい。
本当に受かる人は、「ちょっと〇〇が不安なんです」と具体的に自分の課題を喋ることができる。これは、かなり実感をもって試験勉強に取り組んでいる証拠。勉強も相当進んでいるから、自分の強み、弱みが具体的である。
実際に始めてみること。これ以上にリアルな実感を得る方法はないし、意識を早くそこに向ける方法もない。
人間は仕掛かった作業に没頭する傾向がある。これを作業のトランスと言う。
作業をしている時に話しかけると凄く怒る人がいるが、ひとえに作業に没入している心地よさを邪魔されたくないからである。
以上をまとめると、ポイントは意識であり、意識を早く向けるには実際に手をつけること。手をつけて見えた課題や問題点が取り組みを加速させる。
ただ、分かっているだけではダメなので、実践を心がけたい。

人の言うことを聞きすぎて、身動きが取れぬ

(写真:つがい)

ロバと親子

イソップの『ロバを担いだ親子』の話。

息子「おっとう、もうパンを焼く小麦粉がないだよ。」

親父「じゃあ、小麦粉を買ってくれば良いだろ。」

息子「その小麦粉を買うお金がないんだって。」

親父「馬鹿者、そうならそうと最初から言わんか。ならば、いつものように家のものを売ってこい。」

息子「もう、どこに売るもんが残っているのさ。タンスもタンスの中身も、みんな売ってしまったし、服だって今着ているものだけだろ?」

親父「じゃあ、納屋を見てこい。なんかあるだろ。」

息子「なんにもないよ。鍬や鋤もお金に変えて、今年の春どうしようかって困っていたじゃないか。」

親父「しかし、一つぐらいあるだろ?」

息子「あるにはあるよ。でも・・・。」

親父「でも何だ?」

息子「ロバなんだ。」

親父「バカ言え!ロバを売ったら明日からわしらどうすればいいんじゃ。」

息子「でも、ロバを売らなかったら、もう今日から食べるものがないよ。」

親父「・・・、う〜ん、わかった。背を腹には替えられん。ロバを売ろう!」

かくして、食い詰めた2人は、唯一の財産であるロバを売るために市場へと引いていきました。

その途中。

通行人1「2人でロバを引いて歩いているなんて、勿体無い。どちらかが乗れば良いのに。」

息子「おっとう、あんなこと言われたよ。どうしよう。」

親父「確かにな。じゃあ、わしが乗る。お前が引け。」

人の言うことを聞きすぎて、身動きが取れぬ

息子がロバを引き、親父が乗ってしばらく、行くと、

通行人2「親父が乗って、息子に歩かせている。なんて無慈悲な親だろう。」

親父「むむむ、交代じゃ。お前乗れ。」

息子「分かった。おいらが乗るよ。」

さらに、しばらく行くと、

通行人3「あんな若いもんがロバに乗って、年寄りを歩かせている。親不孝もんもいるもんじゃな。」

息子「お、おっとう!」

親父「ようし、わしも乗るぞ。2人で乗れば文句あるまい。」

しかし、大の男2人に乗られたロバは、あまりの重さにヒーホー言って辛そうです。

通行人4「ありゃ、あれじゃロバが可哀想じゃ。なんと酷い親子だろう。」

息子「お、おっとう!」

親父「もう!降りて歩いてもダメ、乗ってもダメ。どうしたらええんじゃ。
そうだ。息子よ、ロープと長い棒を探してくるのだ。」

息子「え?どうするのさ?」

親父「いいから、早く行ってこい。」

ロバを失った訳

息子「おっとう、あったよ。長い棒とロープ。」

親父「よし、じゃあ、ロバの足をロープで棒に結わえろ。」

息子「よく分かんないけど、分かった。」

親父「よおし、じゃあ、わしが前を持つから、お前が後ろを持つのじゃぞ。そおれ!」

息子「そおれ!」

ロバは4本の足を棒に結わえられ、逆さ吊りになって親子に運ばれていきました。
逆さまに吊られたロバは、苦しそうにヒーホー、ヒーホー鳴きます。
そして、橋の上に差し掛かった時、ちょうどそこへけたたましい音をさせて馬車が通りかかりました。
その音にロバは驚いて、親子の肩の上で暴れ始めました。

息子「おっとう、ロ、ロバが。」

親父「絶対手を離すなよ。」

息子「む、無理だよお。ああ・・・。」

そして、ロバはそのまま橋の上から川に落ちてしまいました。

親父「ああ、たいへんだ!」

息子「たいへんだ!たいへんだ!」

しかし、2人がたいへんだ!と言っている間に、足を結わえられたロバは泳ぐことができずに溺れ死んでしまいました。
2人は唯一の大切な財産であるロバを失ったのです。

聞くべき時と、貫く時

多様性が叫ばれる昨今、いろんな人の意見をよく聞きなさいと言われます。
確かに、多様性を認め、それぞれの良い意見に耳を傾けることは大切です。
しかし、あまり人の意見を聞きすぎると、この親子のように悲喜劇が起こります。
愚かな親子は、良かれと思ってやっていることを次々と道行く人から否定され、どんどん選択肢を潰されていきます。そして、最後に行き着いたのは、もっとも残念で愚かな選択肢でした。
親子は思うでしょう。
わしらは、人の意見に従ってロバを失ったのだから、皆でわしらにロバを弁償すべきだ、と。
しかし、そんな責任を感じる人など、もちろんあるはずもありません。
当然、親子にとって一番正しい選択肢はありました。しかし、無責任な世間の口は、そんな正しいことさえも潰しにかかるのです。
同じように、私たちが誰の意見を聞いて、誰を信じるかは非常に大切な問題ですが、どんなに立派で正しい人にも必ず謗る人間がいます。それを、あの人は謗られているからダメと、悉く人を否定したら結局何もできない、何も信じられない、そして動けなくなります。
まさに、「皆にて褒むる人はなく、皆にて謗る人はなし」ですから、自分が信念をもって正しいと思ったことや人は、たとえ謗る人がいても自分の思いを貫くことが大切です。
もちろん人を苦しめたり、貶めたりすることは論外ですけど。

どうぞ、スッパリやっておくんなせえ

(写真:青の富士 その2)

朝右衛門の失敗

松下村塾で久坂玄瑞ら倒幕の志士や、高杉晋作を指導した吉田松陰が斬首されたのは、まだ齢29の歳でした。
その時、斬首の役に当たったのが、山田朝右衛門という人物です。
山田朝右衛門は、よく時代劇や時代小説に登場するので、ご存知の方も多いでしょう。
山田家は代々世襲で、江戸で重大犯罪を犯しは罪人の首を切り落とすのを役儀としていました。それによって得られる扶持は決して多くありませんでしたが、役得として処刑後の罪人の身体を貰い受け刀の試し切りに使ったり、死体の肝臓や脳を取り出して労咳に効く丸薬を作っていました。それが、かなりの収入になったそうです。
山田朝右衛門は、初代から9代目まで名前が残っています。中には、罪人の顔に貼りついた米粒を、罪人の肌を傷つけずに真っ二つにするほどの腕前の朝右衛門がいました。
それほどの達人の山田朝右衛門なら、罪人の首を切り落とすくらい造作もなかったと思えますが、実は度々仕損じることがあったのです。

どうぞ、スッパリやっておくんなせえ

吉田松陰の首を刎ねたのは、7代目の山田朝右衛門でした。
吉田松陰だけでなく、橋本左内ら安政の大獄の犠牲者を斬首した人物としても有名です。
その7代目山田朝右衛門が斬首に苦労した罪人がいました。
一人は、かの有名な鼠小僧次郎吉です。
捕縛され、死罪を言い渡され、刑場に引き出された鼠小僧の態度は潔いものでした。
「どうぞ、スッパリやっておくんなせえ」と何の気負いもなく自ら首を差し出す次郎吉に、朝右衛門は一太刀で首を落とせず苦労したと言います。
吉田松陰ら幕末の志士は、首を刎ねられる時に気負って首筋に力が入っていました。
そこを切り落とすのは造作もありませんでしたが、鼠小僧次郎吉のように何の気負いもない首は逆に落としづらいと言います。
あと一人は、吉原の花魁でした。全てを覚悟しきったその姿に、いかに手練れの朝右衛門といえどなかなか刀を振り下ろすことができなかったのです。

気負いを捨てる

私たちは、苦難困難に向かう時、それに負けまいと思い切り力を込めます。
ちょうど、今から首を落とされる時に、首に力を込めているようなものです。
力が入って固くなっているのは、ポキンと折れやすいことでもあります。確かに、枝でも硬い枝は折れやすく、柳のようにたわむ枝はなかなか二つに手折ることが出来ません。
気負いの捨てた首が朝右衛門にとって恐るべき難敵ならば、私たちも苦難困難に向かう時に気負いを捨てれば思わぬ力を発揮するかも知れません。
例えば、大衆の前で講演をする場合を考えてみます。
相手は大衆と思うから、一週間以上前からしっかり準備を行います。
原稿を書いて、一言半句その通りに喋ろうと練習します。声の抑揚、間の取り方、喋ってみて伝わりづらい表現はないか、等何度も何度もチェックします。
当日、事前に会場を下見して、ここに人が一杯に入るのかと思ったら、一気に緊張感が高まります。
そして、自分の出番がだんだんと近くにつれ、「失敗したらどうしよう」とついつい気負ってしまいます。
自分の登壇を促す声を聞いた時、壇上に向かって歩く一歩一歩がまさに緊張のマックスです。

テーク イット イージー

そして、壇上から

「皆さん、こんばんわ」

と呼びかける。
その時会場のおかしな雰囲気。

「あっ、まだ朝の10時だった。」

あちゃあ、やっちゃった。
これで、歴史に残る名講演はおじゃん。
でも、それで思い切り力が抜けました。

「いまさら、格好つけてもしかたないか。」

それで、多少原稿から外れても好きなように喋ろうと、多少アドリブを加えながら軽妙なトークが出来ました。
聴取の評価はまずまず。
自分自身も、思いの外うまく伝えられて、自分で自分に90点をつけることができました。
・・・
と言う体験、ありますよね。
気負いを捨てた瞬間、緊張感が転換し、普段以上の力が生まれるのはよく経験することです。
これは、大勢の前に出た時だけでなく、手強くて苦手な相手に対峙する時も同じです。
負けまい、弱みを見せまいと固くなると、かえって隙が出来てやられます。
気負いを捨てれば、相手はツッコミどころを失い空振りするでしょう。
気負いを捨てる。
鼠小僧次郎吉のように、「どうぞ、スッパリやっておくんなせえ」とは言えませんが、せめて「テーク イット イージー」くらいには、いつでも力が抜けるよう練習しておきたいですね。

悔恨と羞恥の夜を経て、人はまた新生する(後編)

(写真:流れに苔むす)

悔恨と羞恥の夜

ジェフは家の庭を手入れするのが日課だった。
あの戦争から40年、軍隊を退役し、いまや恩給を受けながら悠々自適の生活を送っていた。
しかし、そんな恵まれた立場のジェフの心を時折曇らせる暗い記憶があった。

あの作戦に、ジェフは航空士として参加していた。
銀色の巨大な輸送機に、広域破壊兵器、通称ファットマンを搭載し、基地からはるか東の海に向けて飛んだ。
ジェフもまた、「不毛で凄惨な戦争を一刻も早く終結させ、両国の幾百万の命を救うため」と指令を受け、使命に燃えての出撃だった。
そして、作戦は大成功を収めた。
国民はその戦果に狂喜し、マスコミは自分たちを英雄と書き立てた。
そしてほどなく戦争も終わる。
国からの説明は本当だった。
階級も特進し、それ以来軍隊の中のエリートコースを歩んできた。
確かに、恵まれた一生だった。
キーは全てあの日のミッションにあった。
それに感謝こそすれ、恨んだことはない。
しかし、航空士として任務の一役を担ったに過ぎないジェフにも、あの作戦は深い傷となっていた。
任務とは言え、自分たちの作戦で幾つもの街とそこに住む人間が消えたのだ。自責の念に苛まれないとすれば、それは人間ではない。
そして、時折タケルと言う少年兵のことが思いだされた。
親の祖国である同胞の地に、壊滅的打撃を与える、そのレバーを引いた少年兵は、どんな地獄を心に抱えたのだろうか、と。

ある日の午後、ヤマモトという人物からジェフに「会いたい」と連絡があった。
ヤマモトは、海外で画家を生業にしている人物だと言う。彼は、この国に生まれたが、40年近く前に出国して、それまで一度も帰ることはなかったと聞く。
なぜ、40年も経って、また祖国に帰ろうと思い立ったのか。それは、当時の関係者が健在なうちに、前の世界大戦の証言を集めるためだと言う。
それを聞いたジェフは、背中に鈍い痛みを感じた。それは、向き合うことのできない過去を抱えた人間の心の痛みであった。
ジェフは古傷を掘り起こされるようで気が進まなかったが、ヤマモトは、「トム、マイケル、フランツ・・・」と次々と戦友の名を挙げた。全てあの作戦に参加したメンバーだった。

「やはり、過去からは逃げられないのか。」

ジェフは、ヤマモトとの接見を承諾した。

やがて、春の近いうららかな日、ヤマモトはジェフを訪ねてきた。
事前に訪問を聞いていたジェフは、庭先にロッキングチェアを持ち出して、ゆっくり揺らしながらウィスキーをチビリチビリと口に運んでヤマモトを待っていた。
家の前に色のハゲたタクシーが止まり、丸いメガネをかけた小太りの男性が降りてきた。
左手には、旅行用の大きな鞄を提げ、右手には真っ赤なスケッチブックを抱えていた。

「ヤマモトです。」

「遠いところをご苦労だね。」

「こちらこそ、急なお願いをして申し訳ありません。」

そうして、ジェフはヤマモトにも椅子を勧めた。

「ウィスキーでいいかな。ピクルスとサラミもやってくれ。」

「有り難うございます。」

ヤマモトは、丁寧に礼を言って腰を下ろした。

「私は何人目なのだ?」

「え?」

「もう、他の人間には会ってきたのだろ?」

「あの爆撃機の乗組員たちのことですね。」

「ああ、あんたが名前を挙げたトム、マイケル、フランツ、みんなあの日に一緒に飛んだ奴らだ。あいつら元気だったか?」

「はい、皆さんお元気でした。ただ、それ以外の皆さんは、すでに亡くなっておられて、会うことは叶いませんでした。」

それを聞いてジェフは痛ましそうには顔を歪めた。

「そうか・・・、まあ、みんなそんな歳なんだよな。」

「はい、そう言う方もおられましたが、何人かはもう何十年も前に亡くなっておられました。」

「ほう、病気か何かか?」

「いえ、自殺でした。」

人は新生する

それを聞いたジェフの顔は急に険しくなった。

「自殺・・・。なぜ?いや、言わなくても分かっている。自分もそれから目を背けなければ生きられなかったからだ。」

全てを察したようにヤマモトは続けた。

「しかしなぜ、あなた方だけがそんなに苦しまなければならなかったのですか?
あなたたちは、国の命令であの大量破壊兵器を運んだだけではないのですか?
最後、レバーを引いた訳でもない。
むしろ、本当に罪を自覚しなくてはならないのは、その使用を決めた大統領と、それを補佐する高官たちだったはずです。」

ジェフの目が遠くなった。

「だが、わしらはあれをこの目で見てしまった。あの激しい閃光と、真っ赤な血の色のようなキノコ雲を。
あの下で何が起こっていたか、戦争後にあの国と国交が回復したあと、大量に情報が流れこんできた。
何万、何十万もの命が焼かれた。幼い子どもも、生まれたばかりの赤ん坊も・・・。」

「皆さん、そのように苦しんでいました。中には、それに耐えきれず心を病んで、自ら命を絶った人もいます。」

「あんた。」

そう言って、ジェフは皿の上のサラミにフォークを突き立てた。

「これが、かつて生きた豚だったってことを想像できるか。それを知っているのは、実際に豚を殺した屠殺だけだ。
それと同じだ。偉いやつらは俺たちに酷い仕事を押し付けて、自分は遠く離れた場所で涼しい顔をしてやがる。あいつらに罪の意識なんかあるもんか。
それに・・・。」

そこでジェフは一度言葉を切った。

「それに、あんた、あのタケルに会ったかい。あいつ、生きていればまだ60前のはずだ。
あいつは、レバーを引くためだけにあの爆撃機に乗せられたんだぜ。」

「と、言うと?」

「あいつ、親があの国の人間だったんだ。つまり、タケルは自分の同胞に爆弾を落とすために選ばれたんだ。敵国と同じ人種に虐殺をさせて、自分たちは手を汚したくなかったのさ。
あいつら、自分たちがどんなに悲惨なことにらなるか分かった上で、俺たちに運ばせやがったんだ。」

「もちろん、タケルはそれを知っています。」

「あんた、あいつに会ったのか?元気だったか?」

「タケルは、あの大量破壊兵器のもたらした結果を、一人の画家から教えられました。
この赤いスケッチブックが彼の原点だったのです。」

そう言って、ヤマモトは赤いスケッチブックを開いた。
そこには、かつてタケルが見た、炎に焼かれ血まみれで行進する亡者の群れが描かれていた。
思わず、ジェフは口を押さえて吐き気をこらえた。

「これが、タケルのしたことの結果です。」

「や、やめろ!スケッチブックを閉じてくれ。」

ジェフは目をギュッと閉じて、悲惨な絵が視界に入らないように抵抗した。

「ですが、今やこれはタケルの持ち物です。タケルは半生をこのスケッチブックとともに生きてきました。」

そう言って、ヤマモトはメガネを外して机の上に置いた。
ジェフは、その顔に見覚えがあった。

「あんた、タケルなのか?そうだ、タケルだ。どうして、あんたが。」

「これは、私の心の終わりの旅なのです。
私は、一人の画家からこの絵を見せつけられ、ひどく罵られました。
その時、はっきりと自分の罪の重さを知らされ、慄然としました。
それから、苦しんで、苦しんで逃げ出すように国を出ました。どこか、誰も自分を知らないところへ逃げたいと思いました。
そうして、10年近く国から国へとさまよいました。
しかし、どこまで逃げても、あの日の記憶からは逃げられなかった。
だから・・・死のうと思いました。
でも、最後にあの国の、あの場所に言って、自分のしたことを確認したかった。
そして、あの場所で、私はまたあの画家に会ったのです。」

タケルは、少し涙を浮かべていた。
ジェフは、タケルの話をまんじりともせずに聞いていた。

「まるで、10年前から私を待っていたように、あの日に焼かれ、真っ黒焦げになったドームを護るように彼は暮らしていました。
私たちは、仇敵と言うより、旧友のように挨拶を交わしました。
『やあ、やっときたね。』
『ここまで、長くかかりました。』
『私は十分苦しんだ。君も同じだろう。』
『はい、本当は死ぬためにここに来ました。』
『違う、生きるため、私の意志を継ぐためにここに来たんだ。』
そして、画家は私を弟子にしました。
あの日の悲惨な街を、空を、人を、死を・・・そして生をずっと後の世に伝える後継者として。」

「つらくはないのか?タケル。」

「もちろん、つらいです。今でも苦しいです。しかし、そこに向き合って、初めて新しく生き直すことができました。
私は、今あの日の出来事を絵で伝える事一つを生業にしているのです。」

ジェフは、心を打たれたように言った。

「お前は強いな。俺は・・・俺も、タケルのように生きられたらどんなに良いだろう。」

タケルは、そこで春の日に相応しい笑顔を作って言った。

「はい、私はそのために来ました。
あの日の出来事を、人類の罪を風化させないよう、私に力を貸してください。」

(おわり)

悔恨と羞恥の夜を経て、人はまた新生する(中編)

(写真:流れの鳩)

英雄の帰還

敵国に一撃を与えて本国に帰還した面々を、基地では多くの人間が出迎えた。
まずは、スポークスマンを連れた大統領、軍務大臣、空軍大佐、それに連なる上級士官、そして、新聞記者の群れ。
タラップを降りた作戦のリーダーを大統領自ら出迎え、固く握手をした。
そして、かつてない戦果を挙げた英雄として讃えた。
出撃するときは極秘任務と言われ、夜陰に紛れて見送りもなく密かに飛び立った。
それが任務を終えて帰還すれば、多くの人に取り囲まれ、マイクを向けられ写真まで撮られる。
タケルもマイクを向けられ、インタビューを受けた。

「勇敢な若者よ、君の功績により我が国は壊滅的戦闘を避けることができた。君こそは、多くの命の救った英雄だ。」

国のスポークスマンがひとしきり彼を讃えると、群がる記者団に向かって目配せをした。
それを受けて一斉記者たちは質問責めにした。

「なぜ、この任務を引き受けたのか?」
「作戦にためらいはなかったか?」
「両親はこの作戦について、どう言っているのか?」

しかし、記者の一人から飛び出した質問にタケルは絶句した。

「自分の祖国にファットマンを叩き込んで、多くの人間を焼き殺した感想は?良心は痛まないか?」

自分が多くの人間を焼き殺した張本人だって?自分はただ兵隊たちに同行して、ほんの少し任務の手伝いをしただけだ。

タケルの顔色がさっと変わる前に、スポークスマンが合図すると、軍服たちがその記者の身体を抑えてインタビュー会場から連れ出した。

「何も気にする必要はない。君のおかげで彼の国の国民も救われたのだ。」

その後、タケルが聞かされた説明はこうだった。
敵国は戦争の旗色が悪くなるとなりふり構わなくなった。爆弾を積んだ飛行機で体当たりして軍艦を沈めたり、魚雷を人間に操縦させそのまま突っ込ませたり。
戦況が不利と見ると爆弾を抱えた歩兵たちが突撃してくる。
この狂信的集団は、最後の一人になるまで戦争を止めないだろう。もし、敵国での本土決戦となれば、我々は皆殺しにして制圧するしかない。だが、それで被る我が兵の損害も計り知れない。
だから、広域破壊兵器を投下して、わが国との圧倒的力の差を思い知らせる必要があった。
「これ以上抵抗すれば、国の全てをここと同じように焼き払うぞ」とね。

「しかし、なぜ僕なんです。僕が最後のレバーを引かなくてはならなかったんですか?」

「それは君が考えることではない。」

それきりスポークスマンは口をつぐんだので、タケルはその答えを聞くことはできなかった。

そして、翌日の新聞は、タケルたち特殊攻撃隊の戦果の記事であふれた。

「わが国の科学の粋が、惨たらしい戦争を変えた。」
「わが国と祖国を救った少年兵の勇気」

やがて、敵国であるタケルの祖国は無条件降伏し、タケルは軍隊を名誉除隊した。
そして、国の機関に特別待遇で職を得た。
その時、国から与えられた仕事の一つに毎年終戦記念日にファットマンでの特別攻撃について講演することがあった。

「いかに、我々特殊攻撃部隊は果敢に戦い、戦争を収束に導いたか。」

そんなことが何回か繰り返され、タケルも23になった。

幾万の悲鳴

その年の終戦記念日に、もと敵国との国交正常化が実現した。
そして、セレモニーには相手国から来賓が招かれていた。
その中に顔に酷いやけどを負った人物が含まれていた。それは、戦争前に深い親交のあった画家だと言う。
やけどを負った醜い相貌ながら、彼の態度は実にフレンドリーで笑顔を惜しまなかった。
一度は、敵国となって戦った間ではあったが、我が国に抱いている好意は微塵も変わらなかったかと皆安堵した。
その画家は、いつも真っ赤なスケッチブックを携えていた。最初は風景をスケッチするためかと皆んな思っていたが、誰一人彼がスケッチブックを開くところを見たことがなかった。

彼は例年のタケルの講演にも招かれていた。
聞けば彼の方から参加を希望したと言う。
タケルは、かつての敵国の人間にも自分の講演を聞いて貰い、賛同を得られればどれだけ気持ちが楽になるだろうかと考えていた。
そして、彼のいつもの講演が始まった。

その時である。
画家がスケッチブックを持って立ち上がった。
そして、その真っ赤なスケッチブックをタケルに向けて開いて、こう叫んだ。

「この、裏切りもの!俺の顔を見ろ!そして、この絵を見ろ!全部お前がやったんだ!」

その絵は惨たらしかった。
一面火の海を行進する亡者の群れ。
これは地獄の絵なのか?
いや、そうじゃない。あれは人間だ。
服は燃え、縮れて身体にまとわりつき、露わになった肌は真っ赤に火ぶくれをしていた。
そして、身体中から吹き出した血を滴らせて苦悶の行進をする。
絵は一枚ではなかった。
黒焦げになった赤ん坊を抱きかかえ半狂乱の血まみれの母親。
瓦礫に挟まれ、生きたまま焼かれる幼い子どもたち。
川に水を求めて集まり、そこで折り重なって息絶える黒焦げの人間たち。
こんな凄惨な地獄絵図は洋の東西を問わず誰が描き得たのか。

そして、画家はタケルに一生忘れられない言葉を投げた。

「俺の家族が、子どもたちが、あのキノコ雲の下、生きたまま焼かれたんだ。あんなに、愛らしく純真で無垢な魂が生きながら真っ黒に焼かれて炭になったんだぞ。
お父ちゃん、熱いよ、苦しいよって、その声が耳にこびりついて離れないんだ。
お前もまた、同じような苦しみを味わえ。何万もの叫びに責めさいなまれて、残りの一生苦しみもがいて生きるんだ。」

僕の所為なのか。
もしかしたら、分かっていたかも知れない。
あのキノコ雲の下でどんな凄惨な地獄絵図が展開していたか。
だが、敢えて見ないように考えないように封印していた。
そして、二つの国を救った英雄だと思い込もうとした。
だが、全てはウソだった。ゴマカシだった。
どんなに人間が言葉で取り繕おうが僕の罪は消えない。
この世から地獄の業火に焼かれて苦しむしかないのだ。

タケルはいたたまれず、そこを逃げ出した。
そして、その後彼の行方はようとして知れなくなった。

(後編へ続く)

悔恨と羞恥の夜を経て、人はまた新生する(前編)

(写真:柿田川の流れ その6)

ファットマン

その輸送機は、ぶ厚い雲の上を飛んでいた。
細長い銀色の大きな機体、それを10幾つのプロペラでやっと持ち上げていた。
まるで大きな蜂の鈍い羽音のようにブブブブブと音を立てていた。
この輸送機には、数名のパイロットと10名近くの特殊作戦を任務とする兵隊が乗り込んでいた。
その中で一番若い兵隊は、まだニキビの跡の残るあどけない顔をした少年だった。
頭を丸刈りにしたその少年兵は、顔つきが明らかに他の兵隊たちと違っていた。
体躯が大きな、彫りが深い赤ら顔の男たちの中で、目も鼻も作りが小さい彼は、ほんの子供に見えた。
飛行機から伝わる鈍い振動を腹に感じながら、少年兵は大きな男たちに遠慮するように小さく身を縮めていた。

彼が乗っている近くの窓からは、眼下の景色がよく見えていた。
やがて、厚い雲は切れ、下に一面の青い海が見えた。そして、その彼方に小さく見えているのが彼らの目的地であった。
鈍い羽音をさせて輸送機は飛び続け、眼下の景色は海岸線から、見渡す限りの街並へと変わっていった。
その輸送機は、ただ一機だけであった。
敵機の不安はなかった。
交戦国には、もはや地方の一都市に飛行編隊を配備するだけの余裕はなかったのだ。
警戒すべき高射砲も、今の高度までは届かない。
輸送機の任務は、ただはるか上空から敵国内の定められた場所に投下をするだけで良かった。少しくらい狙いが外れても問題ない。落としさえすれば目的を達することができる、そんな強力な何かを積んでいた。

「ワン ミニッツ ビフォア、スタンバイ」

リーダーの指示に兵隊たちは慌ただしく動き始めた。

「タケル、レディ?」

「ヤ」

少年兵は短く答えて、持ち場へと移動した。
そこには、大きなレバーが辺りを圧するように突き出ていた。
タケルは、そのレバーに取り付くと、固く握り締めた。
やがて、リーダーのカウントダウンが始まる。

「テン・ナイン・・」

ガクン、と音を立てて輸送機の底が抜けた。
抜けた底に、数本のアームで支えられている巨大な流線型で鉄色の筒が露わになった。
その筒は先端が丸く尖り、尾に向かって細く収束していった。その尾の先には、羽のようなものが取り付けられている。
タケルからは見えないその筒を、兵隊たちはファットマンと呼んだ。
それは、そのズングリとした姿がまるで太った男のように見えたからだった。

「エイト・セブン・シックス・・」

タケルの脳裏には、輸送機の破れた腹から突き出たファットマンが陽を浴びて鈍く光る姿が浮かんでいた。

粉塵の坩堝

「ファイブ・フォー・スリー・・」

タケルは、レバーを握り締めた指先に神経を集中しようとした。
彼は厚い手袋の中で、じっとりと汗がにじむのを感じた。

「ツー・ワン・・ボミング」

その声を聞いたタケルは、ぐいとレバーを倒した。その時、ファットマンを支えていたアームが解除され、鉄の巨大な筒は輸送機から空に躍り出た。
ヒューウウウウウウウウ。
空中に唸りを残して、ファットマンははるか地上を目指して落下していったが、機内の兵隊たちは、その唸りを輸送機のプロペラ音にかき消されて聞くことはできなかった。
やがて、リーダーはこう口にした。

「クローズ アイズ」

タケルは思わず、固く目を閉じた。
そして、はるか後方から、膨れ上がるように激しい閃光が襲ってきた
その後、遅れて鈍い振動が機体を揺らし、男たちは口々に短い叫びを口にした。

ガタガタとしばらく機体を揺すった振動が収まった後、タケルは目を開いてはるか後方の街を見た。
そこは、巨大な粉塵の坩堝だった。
そして、その中から真っ赤な火柱が立っていた。その火柱ははるか上空まで届いて空を赤く染めた。
やがて、火柱は巨大なきのこのような雲に姿を変えた。
それは、実に幻想的な光景だった。
まるで、星の誕生を思わせるような混沌と光の渦、そしてどこまでも広がっていく粉塵の輪。
そこが、いままで人が暮らしていた場所だったことが想像もつかない。
機内の男たちも、タケル同様その光景をあっけにとられて眺めていたが、やがて誰言うともなく歓喜の声を上げ始めた。

「イェー!アイ ガット イット」
「ウイ ガット イット!ガット イット!」
「イェー!」

そんな声を聞きながら、あのキノコ雲の下に何千、何万の人や生活があったことを想像して、タケルはゾッとした。
しかも、この国はタケルの両親の生まれ故郷なのだ。

タケルの国が、この国と戦争を始めた時、大量に入植していた敵国出身者は身柄を拘束された。
タケルの両親も敵国からの移民であったため、タケルを含む家族全員が市民権を剥奪され、収容所へと送られた。
そこで不自由で屈辱的な毎日を送るタケルに、収容所の責任者から呼び出しがあった。

「君を見込んで軍務を頼みたい。君や、君の家族、そしてひいては今は敵国となっている君たちの祖国のためにもなることなのだ。」

そして、与えられた任務は広域破壊兵器、俗称ファットマンを敵国の上に投下する際にレバーを引くことだけだった。
その時、まだ18歳のタケルに軍隊の経験などあるはずもなく、即席入隊での軍務だった。
戦争である以上は命の危険もある。
しかし、この任務に成功すれば、家族の市民権は取り戻せるし、除隊後のタケルの仕事も保証されると言う。
ならば、決して難しい軍務ではないし、家族のためになるとタケルは決意した。
そして、祖国に広域破壊兵器を投下することに反対した両親にも、「敵国の軍事工場を壊滅させ戦闘不能にすれば、早くこの不毛な戦争を終わらせることがてきる」と言う収容所の責任者の説明を伝えて了解を得た。

しかし、この光景は聞いていたのとまるで違う。そんな生易しいものではない。
命への蹂躙だ。
まだ目の前の光景に十分現実味が湧かない今から、タケルの心に苦悩が芽生え始めた。

「自分が悪いんじゃない。ただ言われたことをしただけだ。」

そして、任務を終えて帰ったタケルたち特殊攻撃に参加したメンバーを、本国では敵国に決定的な一撃を与えた英雄として出迎えた。

(中編に続く)